梨木香歩 『エンジェル エンジェル エンジェル』

梨木香歩の『エンジェル エンジェル エンジェル』(新潮文庫)を読む。

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車中の暇つぶしのために手にした本だったが、予期せぬ傑作だった。

女子高生のコウは母親の自慢の子で、天使のようだと言われている。彼女は死期が迫る祖母の世話をしている。その仕事の引き替えのようにしてコウは母親から熱帯魚を飼ってもらう。エンゼルフィッシュだ。このエンゼルフィッシュは名前がエンゼル=天使なのに、残虐この上ない。コウが水槽に入れておいた小さな魚を攻撃し、食べ尽くす。小さな魚がいなくなると体格の良いエンゼルフィッシュが小さなエンゼルフィッシュを攻撃し、食らう。エンゼルフィッシュは自分を制御できないらしいのだ。

物語は、重層的だ。まず、コウの目で現在の世界が描かれている。そこではコウがおばあちゃんを世話している。もうひとつは、おばあちゃんの若かりし頃の物語がある。おばあちゃんは女学生の頃、エンゼルフィッシュよろしく、何も悪くない級友に対して異常なほど攻撃的であった。

おばあちゃんはエンゼルフィッシュの残虐さを見て、エンゼルフィッシュを嫌う。なぜなら、過去の自分と同じだからだ。しかし、エンゼルフィッシュだって、女学生の頃の自分だって、自分で自分を制御できなかったのだ。そのような時、創造主である神は「私が悪かった」とつぶやいてくれるのだろうか。そんなことをコウとおばあちゃんは話している。

文庫版のページ数は150ページほどしかないが、構成は重層的かつ複雑で、作者が人間の業を淡々と描くその筆致が素晴らしい。『西の魔女が死んだ』や『裏庭』よりずっと深い。心に残る作品だ。

(2015年10月11日)