An die Musik 開設7周年記念 「大作曲家7人の交響曲第7番を聴く」
ベートーヴェン篇
ウィーン・フィルによる7つのベートーヴェン第7文:山岡武司さん
伊東様、7周年おめでとうございます。いつも楽しく拝見させていただいています。
今回の企画、実は私はベートーヴェン以外は聴いたことがありません。しかし、ベートーヴェンの第7は私がクラシック音楽を聴き始めた頃からのお気に入りの曲。1曲だけでもいいということなので、ぜひ投稿したくなり、ペンを取りました(キーをたたきました)。
いざ、何にしようかと考えましたが、私の所有のベト7はウィーン・フィルのものが多いのに気づき、それならと、7にちなんでウィーン・フィルによる7種類の演奏の感想を書こうと思い立ちました。
以下に録音年代順にそれぞれの感想を記します。ちなみに、私は音楽については聴くのは好きですが、全くのシロウトでありますことを付記しておきます。
その1
カラヤン指揮ウィーン・フィル
録音:1959年3月、ウィーン、ゾフィエンザール
DECCA(輸入盤 470 256-2)■演奏時間
第1楽章(序奏部) 第2楽章 第3楽章 第4楽章 11:44(3:49) 8:39 7:42 6:43 繰り返しなし − 繰り返しなし 繰り返しなし■試聴記
LP時代からの愛聴盤です。CD時代になって最初にLONDON盤を購入しましたが、こんなにも音質が悪かったかとがっかりしたものです。しかし、このDECCA盤で聴くと音質はかなり改善されており、満足しています。
さて、演奏はカラヤン流の速いテンポですが、後のベルリン・フィルのものよりも、せかせかした感じがなく、自然な演奏です。楽器の鳴らし方が常に余裕を持っているように感じられ、落ち着いた風合いをも感じます。低音が強調された録音のため、両端楽章の終わり近くでは各楽器の掛け合いの下で鳴っている低弦に迫力があり、高揚感が強調されます。
■一口評
余裕。
その2
シュミット=イッセルシュテット指揮ウィーン・フィル
録音:1969年6月、ウィーン、ゾフィエンザール
DECCA(国内盤 UCCD-7072)■演奏時間
第1楽章(序奏部) 第2楽章 第3楽章 第4楽章 13:08(4:30) 10:16 8:22 9:09 繰り返しなし − 繰り返しなし 繰り返しあり■試聴記
ウィーン・フィルの持ち味が引き出された演奏です。とくにしっとりとした弦が特徴的です。表現はオーソドックスそのもの。全体にテンポが遅く、穏健で、畳み掛けるような演奏とは一線を画しています。ベームのような強い推進力も感じられません。しかし、各パートは鳴ってほしいときにちゃんと鳴り、しかも音を過不足なく出し切るので、聴いていて十分な満足感を得られます。終楽章では後半になるにしたがって自然な高揚感があります。
この演奏では第2楽章が最高の聴きものです。低弦で示された主題がヴァイオリンに移行してからのしみじみとした語り口には涙がにじみ出そうです。それ以降もしっとりとした表現が特徴で、とくにヴァイオリンの美しい音色が印象的です。
■一口評
優美。
その3
ベーム指揮ウィーン・フィル
録音:1972年9月、ウィーン、ムジークフェラインザール
DG(国内盤 F00G 29060 全集より)■演奏時間
第1楽章(序奏部) 第2楽章 第3楽章 第4楽章 12:13(4:12) 9:51 8:28 7:05 繰り返しなし − 繰り返しなし 繰り返しなし■試聴記
引き締まった響きで、ドイツ的重厚さがあります。全体に遅めのテンポを取りながらも、音楽の推進力の強さは相当なものです。
演奏自体はとてもいいと思うのですが、音質がこの年代の録音の割にはやせ気味なのが残念です。
■一口評
質実剛健。
その4
C.クライバー指揮ウィーン・フィル
録音:1975年11月-1976年1月、ウィーン、ムジークフェラインザール
DG(輸入盤 447 400-2)■演奏時間
第1楽章(序奏部) 第2楽章 第3楽章 第4楽章 13:36(3:50) 8:09 8:15 8:36 繰り返しあり − 繰り返しあり 繰り返しあり■試聴記
クライバー一流の躍動感に富んだ演奏です。第2ヴァイオリンを右側に配置しており、楽器同士の掛け合いなどは面白く聴けます。ただ、今ひとつオケの音が出し切れていないきらいがあります。個々の表現はいいと思うのですが、どういうわけか全体を聴き終えてからの印象はそれほどでもありません。
その中にあって第2楽章は落ち着いて聴け、とくに中盤から後半にかけての弱音を活かした表現に好感が持てます。ちなみに、この演奏では弦の最後はピツィカートで終わります。
■一口評
快活。
その5
バーンスタイン指揮ウィーン・フィル
録音:1978年11月、ウィーン、ムジークフェラインザール
DG(国内盤 POCG-9012)■演奏時間
第1楽章(序奏部) 第2楽章 第3楽章 第4楽章 14:15(3:57) 8:46 8:59 7:04 繰り返しあり − 繰り返しあり 繰り返しなし■試聴記
序奏から一音一音、着実に進めており、スケールの大きな演奏を展開していきます。全体に中庸からやや遅めのテンポを採っています。第2楽章では葬送行進曲風で、非痛感漂う管楽器の音が響き渡ります。第3楽章はバーンスタインらしい躍動感に富んだ演奏で、トリオ部のゆったりと堂々とした部分との対比が効果的です。終楽章も堂々とした演奏で、推進力の強さはベームを凌ぎます。
■一口評
威風堂々。
その6
アバド指揮ウィーン・フィル
録音:1987年2月、ウィーン、ムジークフェラインザール
DG(国内盤 F00G 20453 全集より)■演奏時間
第1楽章(序奏部) 第2楽章 第3楽章 第4楽章 14:30(3:52) 8:37 9:03 8:56 繰り返しあり − 繰り返しあり 繰り返しあり■試聴記
音楽の流れがよく、よく歌い、しかも勢いがあります。個々の楽器の音よりも全体の響きを重視した録音が演奏の傾向に合っています。
このことはこの全集に一貫して言えることです。全曲にわたって統一感のある演奏で、当たり外れのない優れた全集だと思います。反面、これといった突出した名演がないとも言えそうですが、私はこの全集を高く評価しています。とくに「英雄」、「田園」そして第7がお気に入りです。
■一口評
流麗。
その7
ラトル指揮ウィーン・フィル
録音:2002年5月、ウィーン、ムジークフェラインザール
EMI(輸入盤 5 57570 2)■演奏時間
第1楽章(序奏部) 第2楽章 第3楽章 第4楽章 14:09(3:43) 8:25 8:28 8:50 繰り返しあり − 繰り返しあり 繰り返しあり■試聴記
適度な軽さを持った小気味よい演奏です。C.クライバー盤と同じく第2ヴァイオリンを右側に、また、コントラバスはオケの背後に配置しています。あの手この手を尽くして創意工夫を凝らした演奏を行っています。独特の演奏ですが、遠慮なくストレートでわかりやすく、聴いていてスカッとします。細部まで徹底した指示が行き届いていることに驚かされます。テンポは節度を持ってある程度自由に動かしています。第1楽章の展開部で管楽器を思いっきり元気よく吹かしているところなど、C.クライバー盤とよく似ています。
■一口評
インテリジェンス。
総評
録音も含めた私の全体評価ではバーンスタイン盤、アバド盤が双璧です。音質の点でベーム盤が一歩譲ります。聴くポイントによってはS=イッセルシュテット盤、C.クライバー盤も1、2の演奏となりえるでしょう。カラヤン盤はやはり音質面でかなり劣ります。ラトル盤は独特の存在ですが、面白く聴けます。
いずれもウィーン・フィルの演奏ということで、同質感があります。カラヤンもベルリン・フィルとは違った演奏をしています。ラトル盤はウィーン・フィルでなかったら奇怪な演奏になっていたかもしれません。
ベト7は「リズムの権化」と評されるように、曲全体をリズムが支配しています。演奏の傾向としては、軽快にリズムを刻み音楽の流れや勢いを重視するもの、一音一音着実にずしりとリズムを刻み音楽の推進力を自然に湧き上がらせるもの、に分けられると思います。上記では、カラヤン、C.クライバー、アバド、ラトル、が前者、ベーム、バーンスタイン、が後者に属します。S=イッセルシュテットは中庸かな?
ところが、どうもウィーン・フィルは"着実派"の演奏に向いているように感じます。
着実派ではベームが体質的にこの曲に合っているように思います。私は、ベームの全集の中でも第7が最も優れた演奏だと思っています。ただ、音質面で今ひとつの感があります。(余談ですが、ベームと同様、着実派では朝比奈がこの曲との相性がいいように思います。両者とも、「田園」でもいい演奏をしていて、私の頭の中では『第7でいい演奏をする人は「田園」もいい演奏をする』という法則が出来上がっています。)
ベームの演奏で音質のいいものがあります。最後に来日したときの特別演奏会のライヴ録音盤です。死の前年の演奏です。実はこれが私の最もお気に入りのベト7なのです。最後にこれを紹介して私の拙文の終わりとします。
私のお気に入り
ベーム指揮ウィーン・フィル
録音:1980年10月、東京、昭和女子大学 人見記念講堂
Altus(国内盤 ALT065)
第1楽章(序奏部) 第2楽章 第3楽章 第4楽章 13:55(4:53) 10:34 9:26 7:49 繰り返しなし − 繰り返しなし 繰り返しなし一段と遅い演奏ですが、音楽の持つ生命力は失われず、スケールの大きさはバーンスタイン盤以上です。このときのベームは椅子に腰掛け、ほとんど指示らしい指示は出していなかったのですが、長年の関係から、ベームに対する愛情と尊敬の念を持ってウィーン・フィルも奮起し、このような猛演が生まれたものと思います。
(2005年11月11日、An die MusikクラシックCD試聴記)