An die Musik 開設7周年記念 「大作曲家7人の交響曲第7番を聴く」

ドヴォルザーク篇

文:伊東

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CDジャケット

交響曲第7番 ニ短調 B.141 作品70
ノイマン指揮チェコフィル
録音:1972年8月、プラハ、ルドルフィヌム
SUPRAPHON(国内盤 COCO-70500)
併録:ドヴォルザーク:交響曲 第8番 ト長調 B.163 作品88

 

 ドヴォルザークの交響曲第7番の録音数は、第8番や第9番に比べるとずっと少なくなっています。有り体に言って人気がないのでしょう。立派な名曲だと思うのですが、もったいないですね。制作サイドでもこの曲の録音には慎重なのか、交響曲第7番を録音するのは何らかの形で東欧にゆかりのある指揮者やオーケストラになっています。違和感のある組み合わせではセールスがうまくいかないということなのでしょう。

 そうして録音されたものの中でも、クーベリックの録音を無視することはできません。クーベリックはこの曲を何度も録音しています。通常入手できるものでは1951年にフィルハーモニア管と録音したEMI(TESTAMENT)盤、56年にウィーンフィルと録音したDECCA盤、さらに71年にベルリンフィルと録音したDG盤があり、ここまでがスタジオ録音です。さらに78年にバイエルン放送響と演奏したORFEO盤があり、これがライブ録音です。このうち最後のDG盤がクーベリックによるこの曲の決定打となっているようです。このページの読者で「ドヴォルザークの交響曲第7番が好きです」という方なら、まず間違いなくDG盤を聴いたことがあるはずです。

 ところが、このクーベリックのDG盤は、聴き慣れてしまうとその呪縛から逃れられなくなるという恐るべき魔力を持っています。他の演奏を聴くと多かれ少なかれ気が抜けたように感じられてしまうのです。何となれば、クーベリックの燃えるタクトのもと、ベルリンフィルがドイツ的な交響曲をドイツ風に強力に奏でていてすごいのです。

 この曲の成立過程を考えてみると、ドヴォルザークがこうした重厚・強力な響きで情熱的に演奏されるのがおかしいとは私は思いませんし、交響曲第7番の最も立派な演奏として数えることにやぶさかではありません(私の唯一の不満は、録音が若干古さを感じさせることくらいです)。

 さて、このクーベリック盤に対抗できる録音は何があるのでしょうか。セル盤をはじめ有力な演奏がいくつかありますが、クーベリック盤の対極に位置する演奏としてノイマンの72年盤を挙げておきます。

 ノイマンはチェコフィルに22年間首席指揮者として君臨しました。チェコフィルとはお国ものであるドヴォルザークの交響曲全集をその間に2度制作しています。第1回は1968年〜73年にかけて、第2回目は1981年〜87年にかけていずれもSupraphonに録音されています。さらに交響曲第7番については、1991年11月に東京芸術劇場におけるコンサートがライブ録音され、CANYONから発売されています。

 そのどれを選ぶかという問題になりますが、これは聴き手の好みによって完全に分かれそうです。

 我が国の録音エンジニアとして有名な江崎友淑さんの手になるCANYON盤は最も録音が新しく、美麗サウンドが満喫できます。あの東京芸術劇場でよくこんな音で録音できたものだと感心せずにはいられません。チェコフィルがよほど調子が良かったのでしょう。オーケストラの機能美が十分に発揮されています。が、江崎さんの録音に共通して言えることですが、私は音にばかり気を取られてしまい、演奏に集中できません。

 デジタル録音による第2回目の全集に収められている交響曲第7番は、1981年10月に録音されています。デジタル初期ですが、これまた優秀録音で「東欧」という言葉が存在していた時代のチェコフィルの音を確認できます。金管楽器や木管楽器にたっぷりとヴィブラートがかかっていて驚きますが、ホルンの響きを聴いているとかつてシュターツカペレ・ドレスデンの首席ホルン奏者であったペーター・ダムを彷彿とさせ、地政学上の関連性を考えさせられます。

 第1回目の全集に収録された交響曲第7番は、1972年に録音されています。録音は3者の中で最も古いのですが、どういうわけかこれが最も音楽に没頭できる音と演奏なのです。皆さんも経験がありませんか? いろいろとCDを聴き比べていて、ある時「これだ!」と思う瞬間が。私の場合、ノイマンの72年盤がそれに当たります。

 演奏はクーベリックと対極にあると書きましたが、クーベリックがドイツ風ともいうべき強力なサウンドで燃えたぎる演奏をしているのに対し、ノイマン盤はある意味おおらかな演奏で、耳に実に心地よく響いてきます。こんな表現が許されるのかどうか分かりませんが、ゲルマン的ではなくボヘミア的です。もちろん緩い演奏をしているわけでは決してなく、アンサンブルも精密ですし、この曲らしいブラックな盛り上がり方もしています。ヴィブラートがかかっている音色はここでも十分聴けますが、81年デジタル録音盤ほど盛大ではありません。このCDでは、古さを感じさせない録音によってそうしたチェコフィルらしい音も十分楽しめます。全体的な特長は、「音」や「パッション」や「機能性」などといった類の「何か」に偏っておらず、バランスがよく取れているのです。「力で攻め立てなくても十分にドヴォルザークを演奏できるよ」とでもいいたげな演奏なのですが、これを実現して聴き手を納得させるのは結構難しいことでしょう。交響曲第7番全曲を聴き終えた後も、「よい演奏を聴いた」という充実感に浸ることができます。ノイマンにしてもチェコフィルにしても貫禄の演奏ですし、私はSUPRAPHONの録音も素敵だと思います。

 この優れた演奏を、交響曲第8番(1971年録音)とともに聴けるCDが2005年現在では1,050円で入手できます。この値段なら文句なしでしょう。演奏に満足したならば、7枚組全集も出ていますのでお勧めです。

 

(2005年11月6日、An die MusikクラシックCD試聴記)