An die Musik 開設8周年記念 「大作曲家の交響曲第8番を聴く」

ベートーヴェン篇

文:青木さん

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CDジャケット

ベートーヴェン
交響曲第8番 ヘ長調 作品93
イーゴル・マルケヴィチ指揮ラムルー管弦楽団
録音:1959年12月 パリ
PHILIPS(国内盤:ユニバーサル UCCP3396)

(カプリング:交響曲第5番&L.モーツァルト「おもちゃの交響曲」)

 約50年も昔にこのような鮮烈きわまるベートーヴェンが録音されていたという事実は、よく考えてみると相当すごいことなのではないか……この8月にようやく国内初CD化された当盤を聴いて圧倒されたばかりでしたので、ベートーヴェンの8番で採りあげるCDはこれしか考えられませんでした。

 激しいです。速いテンポでテンション過剰、メリハリくっきり。低弦がゴリゴリ鳴っていて、ティンパニも存在感抜群。聴き応え満点。このディスクの最初に入っている第5番にはピッタリの表現ですが、第8番の曲想にはかなり異質で、それだけに演奏の個性がはっきりと浮かび上がっています。そして重要なことは、型破りのトンデモ演奏などではなく、きっちりと風格が保たれていて、実に立派なベートーヴェンになっていることです。底知れぬ魅力を持っている名盤といえましょう。

 しかしながら、もしこのCDが「交響曲全集の一部」だとしたら、ちょっと場違い感のありそうな演奏ですね。マルケヴィチとラムルー管は、モノラル時代に第6番をDGに録音し、フィリップスで1・5・8・9の4曲を録音しました。全集にならなかったことは残念なようでいて、しかし結果的にはよかったかのもしれません。

 ベートーヴェンの9つの交響曲は、そのすべてが傑作であるだけでなく、一曲ごとのキャラが見事に立っており、さらに全曲を通じてストーリーがあって、9曲で一つの小宇宙を形成しています。画期的内容の第3番と凝縮し尽くされた第5番の間にある第4番の存在……並行して作られたという5番と6番の対比……そして圧倒的威容を誇る第9番の前にこの第8番があることなど絶妙ではありませんか。それを全集の中でうまく表現するためには、やはり第8番には軽妙洒脱さや小粋さが求められます。

 このマルケヴィチ盤が仮に全集の一部だとすれば、おそらくなんとも居心地の悪い存在になってしまうでしょう。これは第8番を単独で聴く場合に挙げられるべき録音、という気がします。

 ちなみに、「ベートーヴェン交響曲全集」としての完成度がもっとも高いと感じたのは、2ダースほどの全集を聴いた範囲内では、ショルティの新盤でした。同じシカゴ響とあえて再録音したことの意味が最初はわからなかったのですが、どうも2回目の録音は「全9曲を通じての一貫性、世界観」が意識されているようなのです。で、1回目との演奏の違いがもっとも大きい曲が、この第8番でありました。

 

(2006年12月1日、An die MusikクラシックCD試聴記)