An die Musik 開設8周年記念 「大作曲家の交響曲第8番を聴く」

ドヴォルザーク篇

文:中村さん

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CDジャケット

ドヴォルザーク
交響曲第8番 ト長調 作品88
コンスタンチン・シルヴェストリ指揮ロンドンフィル
録音:1957年6月24,25日、7月1日、ロンドン、キングズウェイホール
EMI(国内盤 TOCE-1573=左写真)、DISKY(輸入盤 BX 707452)

 シルヴェストリという名を聞いて思い出すのは、若い頃にFMで聴いたエネスコの『ルーマニアンラプソディー第1番』の演奏でした。オケがどこだったかは全く記憶にないのですが、日本語訳の『狂詩曲』の名に恥じない(?)、緩急強弱変幻自在な滅茶苦茶に面白い演奏だと思いました。

 その印象が余りに強かった為に、その後同じ曲をFM放送やLP・CDで聴きましたが、どれもが整然とし過ぎて凡演と感じられてしまったものです。たったこの一曲の演奏の為に、自分の中でのシルヴェストリの印象が固定されてしまい、曲がなんであれ『狂詩曲』的な演奏が展開されそうで、他のレパートリーを聴く気持ちになれませんでした。

 5〜6年前、CD店のワゴンセールでシルヴェストリ・コレクションの10枚組みセットを偶々発見、国内盤新譜1枚+α程度の価格でしたので、「気に入った演奏があれば儲けもの!」 程度の軽い気持で購入しました。

 いの一番に聴いたのは、やはり『ルーマニアンラプソディー第1番』。オーケストラは何とウィーン・フィル!指揮者がオケを思いのままに振りまわしているのか、メンバーが悪乗り(?)して自在に演奏しているのかは私には判りませんが、ともかく昔FMで聴いたそのままの、その名の通り『狂詩曲』に相応しい演奏…。

 嘗ての印象が再確認され、彼への漠然としたイメージは確信へと変化。収録されている他の曲、例えばドヴォルザークの交響曲第7、8番や、フランクのニ短調交響曲等は、とても相応しい演奏が期待できそうにない為、聴く気にもなれませんでした。

 でもコレクションの中の小品は、思い付いた時には、半ば怖いもの聴きたさの心境で少しづつピックアップして聴いてはいました。

 どうにも鼻について受けつけない演奏も有りましたが、この指揮者、余程『狂詩曲』と相性が良いのか、ラヴェル『スペイン狂詩曲』などは、表情がとてつもなく濃密で妖艶な雰囲気が楽しめ、私にとっては結構満足できる買物ではありました。でも巷間評されるように、個人によって、又彼を支持する人の中でも曲によって、好き嫌いが二分されるであろうことが容易に推察出来る極めて個性的な演奏家だと思います。

 先日、国内・輸入盤ともに入手できなかった某指揮者によるドヴォルザークの第8番のディスクが漸く入手出来たのですが、これが見事に期待を裏切る凡演!その腹癒せに、初めてシルヴェストリの演奏する8番をトレイに載せましたが、これは逆の意味で私の想像を裏切る素晴らしい演奏でした。

 初めて聴いた時、シルヴェストリ節と言われる独特の節回しは確かに気にはなりましたが、全曲を通して大変に減り張りが利いたフレージングの演奏です。そんな中で特に弦と木管との響きの調和は素晴らしく、快適なテンポと相俟って、それまで彼に抱いていた濃厚な演奏とは異なった、大変に爽やかな印象を受けることが出来ました。

 爆演系、小節をきかせたフレージング、出来不出来が激しい等と評され、正統派としての評価とは縁遠い指揮者である為、格調高い演奏を好まれる方が多いであろうこのブログに投稿する事には、正直申し上げて躊躇しました。

 しかし敢えて投稿させて頂きたいと思うほどにこの演奏に惹かれた理由は、第3楽章冒頭の思いの丈を込めたメロディーが、感傷に流されるぎりぎりのところで、格調を保って余りに美しく歌われているからなのです!

 この部分、これまでに名演奏と評される多くのディスクや実演を結構な数聴いてきましたが、いつの頃からかどの演奏も一様に淡白に感じられ、物足りなさを覚えて仕方なかったのです。それは過去に聴いた誰かの演奏が体験として擦り込まれた所為なのか、或は自分勝手に曲想を膨らませたのか、全く分かりません。それはともかくも、そんな積年の不満がシルヴェストリのこの演奏を聴くことによって、ようやく解消されたのです。

 このメロディー、この演奏では再現部が冒頭とは違った節回しで歌われるのですが、これが又絶品としか言いようのない美しさです。3楽章だけにに限らず、この曲での再現部は、提示部とは異なった歌いまわしがなされているのも興味深いものでした。よく言われるところの、一発嵌った時の快心の演奏なのだろうと感じられます。

 この文章を書くにあたって、『An die Musik』8周年記念特集に値する演奏なのか、書く前と後に二度聴き直してみましたが、飽きるどころか逆に新しい感慨が発見できた為に、これは単なる虚仮威しの演奏ではないと判断し、投稿のボタンを押す決心をした次第です。

 

(2006年11月21日、An die MusikクラシックCD試聴記)