An die Musik 開設8周年記念 「大作曲家の交響曲第8番を聴く」
マーラー篇
文:グリエルモさん
マーラー
交響曲第8番「千人の交響曲」
クラウディオ・アッバード指揮ベルリンフィルシェリル・シュトゥーダー、シルヴィア・マクネアー、アンドレア・ロシュト
フォン・オッター、ロースマリイ・ラング、ペーター・ザイフェルト
ブリン・ターフェル、ヤン−ヘンドリク・ロータリング
ベルリン放送合唱団、プラハ・フィル合唱団、テルツ少年合唱団録音:1994年2月、ベルリン・フィルハーモニーにおけるライブ録音
DG(輸入盤 445843-2)私もショルティ、テンシュテットの名盤を座右の盤としてきましたが、伊東さんが挙げられなかったものをひとつご紹介したいと思います。
アッバードとベルリンフィルのマーラーの「千人の交響曲」
ペーター・ダムのホルンが、どんな録音においてもその存在を訴えかけてくるように、このアッバードとベルリンフィルのライブ録音においてフルートを担当するエマニュエル・パユの天国にいるかような澄み切った音色と祈りの歌は本当に際立っています(CD上には記載はありませんが、その音色を一聴すると彼とわかります。また彼自身がファンからの質問に答える形で認めています)。
第2部の冒頭、パレスティナの荒れ野の洞窟で聖者が修行し、その回りをライオンが歩いている様を表現した「ライオンの音型」の威厳に満ちた低弦のピッチカートに乗って奏でられる天上のフルートの輝きは決して他の演奏では聞けない素晴らしい瞬間です。この部分を筆頭に、全編で繰り広げられるベルリンフィルの緻密で精妙なアンサンブルは、精緻さと突き抜けた清らかさの点では過去の名盤の水準を遥かに超越したものです。
そして、ファウストの最終場面の天上的な「女性的なものへの憧れ」をあるがままに、それに相応しく表現したものだと思います。
それにしても、なんという美しい音楽なのでしょう。精緻で輝くオケに相応しいソリスト陣。前述のパユのフルートに続くつぶやくような合唱に続くブリン・ターフェルの雄々しく深々とした、輝きを持った包み込むような声も傑出し特筆されるべき瞬間です。また、最盛期のルネ・コロに比肩できるようなペーター・ザイフェルトの神々しいまでの強く美しい声。透明ですっきりした声を基調に、吟味されて統一された女声陣。マクネアー、ロシュト、オッターを中心に現代的でヴィブラートを抑えた禁欲的なアンサンブルは天国の音楽でも聞いているようなこの演奏の方向性にぴったり合っている。合唱も美しい。
そして、アッバードの指揮。いい意味で指揮者の存在を忘れてしまうほどの自然な息遣い第2部最後のフレーズ「全て移ろい行くものはただ比喩に過ぎぬ。・・・永遠に女性的なるものが我らを引いて昇り行く」の虚飾も誇張もない自然に湧き上がるクライマックス。マーラーが憧れつづけ、そして決して満たされることのなかった理想の女性像への憧れの念。この部分の憧れに満ちた「Ewig Ewig (永遠に、永遠に)」の音形をマーラーは「大地の歌」でも、9番の主題としても使ったくらい拘りを持っていたのは周知のことですが、その清らかな世界への憧憬にぴったり寄り添うような優しさに満ちたアプローチ。彼のマーラー演奏のなかでもウィーンフィルとの3番と並んで評価されるべき名盤であると私は信じます。
ガリー・ベルティーニ指揮東京都交響楽団
晋友会合唱団、新宿文化センター25周年記念合唱団、東京荒川少年少女合唱隊、オーケストラとうたうこども合唱団
中村智子、澤畑恵美、半田美和子、手嶋真佐子、竹本節子、福井敬、 福島明也、長谷川顕録音:2004年5月20日、横浜みなとみらいホールにおけるライブ録音
fontec(国内盤 FOCD9216)そして、もう1枚 2004年5月にベルティーニが東京都響を振ったライブ録音の一枚。これは同時期の9番の録音と並んで「音楽の遺言」とも言える究極の名盤です。歌手は全て日本人ですし、今回挙がっている名盤とは同列には扱えないかもしれませんが、これほど指揮者とオーケストラの気持ちがひとつになった演奏はあまりないのではないかと思います。
(2006年12月11日、An die MusikクラシックCD試聴記)