An die Musik 開設8周年記念 「大作曲家の交響曲第8番を聴く」

マーラー篇

文:青木さん

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CDジャケット

マーラー
交響曲第8番 変ホ長調「千人の交響曲」
ロリン・マゼール指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 ほか
録音:1989年6月19-24日 ムジークフェラインザール,ウィーン
SONY(輸入盤全集:SX14X 87874 0878742003)

 マーラーの一連の交響曲は、ベートーヴェンのそれに次いで「全9(11)曲を通しての巨大な世界観」を感じさせます。しかし、ベートーヴェンの場合は最後に聳える第9番の終楽章に合唱が入ることで大円団的な大河ストーリーがあるのに対して、第8番が唐突に肥大しているマーラーの世界はどうもいびつな感を否めません。この次に作られた交響曲も全編声楽入りという点では共通しているのに「9番を書くと死ぬ」という妄想のせいで番号が付けられなかったこともあって、この曲の「第8番」という数字そのものにも違和感をおぼえる始末。メンゲルベルクに宛てた有名な手紙の中で、マーラーはこの曲を宇宙に例えています。第1番から第10番へと至るシンフォニー大世界を「小宇宙」と捉えると、やはりこの曲だけは別の世界観を持つ曲として、その枠外にあるように思えてなりません。こんなことにこだわる人はあまりいないでしょうけど。

 実は、マーラーの交響曲の中で例外的に好きになれないのがこの第8番なのです。冗長かつ散漫な印象で、なんだかわけがわからない。何度聴いても馴染めません。この曲に思い入れを持てる方が心底うらやましく思えます。剛毅なショルティ、暖色系のハイティンク、壮麗なシャイー、渋いノイマンなどに比べて、まだしも面白く聴くことができたのがマゼール盤でした。比較的メリハリが利いており、全体の演出が巧みなせいでしょうか、終盤の盛り上がりがなかなかに感動的。しかし第1部はこれも退屈です。打楽器の音が小さめという不満を除けば録音は良好で、オーケストラの美音と合唱の迫力を堪能できます。

 マゼールとウィーン・フィルの双方にとって初となるマーラー交響曲全集は、1982年から1985年までに9曲が集中的に録音された後ぷっつり途絶え、ここまできて頓挫かと思われた頃にようやくこの第8番がレコーディングされて、一応完結しました。テンシュテットの全集録音にも同様のブランクがありましたし、7曲をもって現実に頓挫してしまったレヴァイン、ノイマン(新)、ハイティンク(新)の場合も、録音されなかった数曲のうちの一曲はいずれもこの第8番。そうなったのには他の曲より経費と手間がかかるからという実際的な理由もあったのでしょうが、この曲の異質さも影響しているのではないでしょうか。「大地の歌」を省略する欠陥全集が多いのと同じ理由で、この曲の収録もつい後回しにされてしまうように思ってしまうのですが。

 それにしてもみんなが好きな曲を自分だけ理解できないのは悔しいことでもあります。やはりテンシュテット盤を聴いて出直すべきでしょうか。

 

(2006年12月7日、An die MusikクラシックCD試聴記)