An die Musik 開設8周年記念 「大作曲家の交響曲第8番を聴く」

シューベルト篇

文:青木さん

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CDジャケット

シューベルト
交響曲第8番 ロ短調 D.759「未完成」
ベンジャミン・ブリテン指揮イギリス室内管弦楽団
録音:1970年 モールティングス、スネイプ
DECCA(国内盤:ポリドール POCL9727)

 

 「未完成」はワタシにとって名演のハードルが低い曲です。黒澤明監督の『素晴らしき日曜日』という映画のラストのクライマックスで延々と流れるのですが、これが実に貧相な演奏で……既存のレコード流用なのか東宝管弦楽団なのかは知りませんが、どちらにしても1947年の映画ですので仕方のないことではあります。とはいえ映画そのものはなかなかの名作で、何度も観ているうちにその演奏も頭に焼き付いてしまい、ついには「未完成」の比較基準になってしまう始末。

 それでは話にならぬので、いちばん感銘を受けたCDは……と考えてみますと、真っ先に浮かんできたのがブリテン盤でした。今回聴きなおしてみて、その素晴らしさに改めて感じ入った次第。とはいえそれを言葉にすることは、モーツァルトのケース同様、たいへん難しいのです。ひとことで言えば「中庸」なのかもしれませんが、含蓄があるとか滋味に富むとか、抽象的な表現しか出てこないのが我ながら情けない。自然体、というのとも少し違うような。とにかくすべてが絶妙、としか言えません。この演奏から伝わってくるものは、作品に対するブリテンの愛情です。この曲が内包している暗さや深さも含めて。

 温かみのある録音がまた素晴らしく、しっかりとした実在感とふくよかなブレンド感が両立しており、これまた絶妙。つい最近に廉価盤で再発売されたばかりですので、強くお薦めしたいと存じます。

 あと、シュターツカペレ・ドレスデンの録音が多いこの曲ですが、異色のCDとしてペーター・シュライヤー指揮によるものをご紹介。オーケストラの美音は魅力満点、しかし対旋律が強調されがちで妙なバランスです。強弱のメリハリも独特ですし、ティンパニの音が途中から大きくなったりして、なんだか意図がよくわかりません。でもそのせいで、この曲のオーケストレーションやカペレの個性について違った角度から気づかされる、という結果になっています。手持ちのCD(第5番と組み合わせ)は輸入盤で詳細不明、1970年代の録音らしいのですが、この指揮者は1980年代にカペレを指揮してバッハの声楽曲を録音していた声楽家のシュライヤーですよね?

 ところで、今回の企画にちゃんとこの曲が入っているのは、個人的には嬉しいことです。シューベルトの「未完成」はあくまで第8番。いまさら別の番号にされるのは、冥王星が惑星でなくなったと言われるよりも違和感のあることなのです。


注)ペーター・シュライアーのCDについて(文:伊東)

 青木さんが紹介されているシュターツカペレ・ドレスデンのCDは声楽家ペーター・シュライアー本人による録音です。

CDジャケット

シューベルト
交響曲第8番 ロ短調 D.759「未完成」
交響曲第5番 変ロ長調 D.485
ペーター・シュライアー指揮シュターツカペレ・ドレスデン
録音:1977年2月
BERLIN Classics(輸入盤 0030312BC)

 録音された1977年頃は当時のシェフ、ブロムシュテットによるベートーヴェンの交響曲全集やヨッフムによるブルックナーの交響曲全集の録音が真っ盛りで、シュターツカペレ・ドレスデンの名盤が続々と生み出されていました。

 ペーター・シュライアーの録音はその当時の音を今に届けてくれるので、私にとっては大変貴重であります。どのセクションの音を聴いてもほれぼれとします。特にホルン! 例えば第2楽章の終わり頃に登場するその響きは、現在では全く聴かれないものです。演奏にも、私はあまり違和感を感じていません。多分青木さんと同様、私にとっても名演のハードルの低い曲なのかもしれません。

 

(2006年12月2日、An die MusikクラシックCD試聴記)