An die Musik 開設8周年記念 「大作曲家の交響曲第8番を聴く」

ショスタコーヴィチ篇

文:青木さん

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CDジャケット

ショスタコーヴィチ
交響曲第8番 作品65
サー・ゲオルグ・ショルティ指揮シカゴ交響楽団
録音:1989年2月 オーケストラ・ホール、シカゴ(ライヴ録音)
DECCA(国内盤:ポリドール FOOL20462)

 正直言ってショスタコは苦手な作曲家です。たとえばバルトークやベルクやヴァレーズなんかに感じられる「不穏なカッコよさの魅力」が決定的に欠けていますし、政治的な意味合いと関連づけて音楽を聴くことにも興味ありません。この第8番も、その背景にはなんだかいろいろあるようですが、一方で彼の全交響曲中でもっともハードボイルドな曲だとのこと。その側面を徹底的に追及した演奏で純粋に楽曲を楽しみたい、とくれば、ショルティ&シカゴの出番です。

 ショルティは自伝の中で、この作曲家について次のように述べています。

  • ソ連でこれほど進歩的な音楽が書けた人間はどこかで体制と政治的に妥協していたはずだと考え、長いあいだ彼の音楽を敬遠してきた
  • ヴォルコフとの対話(註:いわゆる「証言」のこと)を読んで、彼が猛烈な弾圧を受けながら仕事をしていたのを理解し、誤解を悟って積極的に指揮するようになった
  • 政治的弾圧に対して音楽家は口を閉ざすべきではないことを、「バビヤール」によって強く実感した

 そして、ショルティが76歳になって初めて録音したショスタコーヴィチがこの曲でした。ナチスから逃れて祖国を失った彼にとって、ショスタコーヴィチには共鳴するところも多かったのでしょう。しかしそんなことを感じさせるような演奏にはなっていないところが、ショルティらしいと思います。

 ここで展開されるのは、シカゴ響のパワフルで強靭な音響と合奏力をこれでもかと全開させた、圧倒的なオーケストラ芸術。激烈な第2楽章や第3楽章も熱狂や深刻さには無縁で、メカニカルな演奏が淡々と進みます。しかし壮絶なサウンドがかえって凄みを感じさせ、押しの強い説得力に繋がっているあたりは、このコンビならではの特徴。第1楽章も、もっと深みを感じさせるような演奏もありそうですが、その意味では外面的かもしれません。その分、クライマックスの迫力にはただならぬものがあり、もうただ純粋に聴き惚れてしまう、という按配です。

 おそらくこんな演奏は異端なのでしょう。しかしワタシにとってはかけがえのない魅力を持った貴重なCDです。

 なお、これはライヴ・レコーディング。晩年のショルティはライヴ収録が多くなり、その中にはデッカらしからぬ平凡な録音も多いのですが、このCDはまずまずの音です。再発売が望まれます。

 

(2006年12月4日、An die MusikクラシックCD試聴記)