An die Musik 開設9周年記念 「大作曲家の交響曲第9番を聴く」
ブルックナー篇
文:松本武巳さん
ブルックナーの交響曲第9番に関しては、私の個人的な思い出について徒然と語ってみたいと思います。実はここに挙げたディスクが、個人的な推薦盤と完全に一致するわけでは無いのですが、思い入れのあるディスクばかりであることは確かです。いつもと同様に気楽に読み流してくだされば幸いです。
カルロ・マリア・ジュリーニ指揮
シカゴ交響楽団
録音:1976年
EMI(国内盤 TOCE13165)このディスクは、本当に徹底的に聴き込みました。初めて聴いたときに、第2楽章のリズムの刻み方が、私の心にとても染み込んできた記憶が現在でも鮮明にあります。今なお、この交響曲の最も自分にとっての基本となるディスクであります。ちなみに、LP時代のこの曲のディスクは、短い第2楽章の真ん中で切って裏面に移るか、あるいは第2楽章を表か裏のどちらかに詰め込むかで、判断がバラバラでしたが、このジュリーニの演奏は第2楽章を二つに切っていたのですが、私は実はCDが出来たときに最も感謝したのは、このブルックナーの第9番第2楽章の心配をしなくて済むことであったことも、ここで白状しておきたいと思います。
カルロ・マリア・ジュリーニ指揮
ウィーンフィルハーモニー管弦楽団
録音:1988年6月
DG(輸入盤 427 345-2)こちらの新盤は、期待の大きさとは反対に、聴いた直後は軽いショックを覚えたディスクでした。ジュリーニの旋律を徹底的に粘って引き伸ばす指揮振りに、私は辟易とした記憶が残っています。私にはこの演奏はレガート奏法とかではなく、単に粘々した粘着気質の演奏に終始しているように思え、素晴らしかった旧盤とは異なり、その後に読んだ世評がかなり高かったにも関わらず、個人的にはこれまであまり関心を持てなかったディスクでした。
カルロ・マリア・ジュリーニ指揮
シュトゥットガルト放送交響楽団
録音:1996年9月19日
Arthaus Musik(輸入盤 101065)前期DG盤で失望したので、私は更にその8年後のこのDVDをしばらくは無視し続けておりました。しかし、最近初めて見聞し本当に驚きました。まず、テンポ設定が、シカゴの旧盤にとても良く似た流麗な演奏であったことです。さらに、晩年のジュリーニらしい歌心も十分に感じ取れたこと、加えて長い年輪の末にたどり着いた、ジュリーニの人生の総決算を感じさせるような演奏の深さに、私は真に心を打たれました。この映像を長年無視していたことが悔やまれてなりません。かつ、このDVDはリハーサルの模様が収録されており、そこでジュリーニが示唆しているものは、本当に奥の深いものがあります。リハーサルの収録が一部分に留まってはいるものの、この映像はとても貴重な内容であると思います。
カルロ・マリア・ジュリーニ指揮
シュトゥットガルト放送交響楽団
録音:1996年9月20日
Hanssler Swr Music(輸入盤 93186)このヘンスラー盤は、上記のDVDに収録された演奏とは異なり、その翌日の演奏会をライヴ収録したものです。このCDで、何とジュリーニはシカゴとのディスクをさらに上回る、とても快速な演奏を行っています。その事実にまずは驚きます。さらに、シュトゥットガルトのオケは、この楽曲の伝説的な名演を多く残していることでも有名なように、ここでジュリーニの手足となって大変充実した深い響きに加えて、完璧に近いアンサンブルを聴かせてくれています。ジュリーニの旧盤でのシカゴ響や、新盤のウィーンフィルよりも、響きとアンサンブルがともに明らかに上回っていることがはっきりと聴き取れ、本当に感動とともに驚愕するほどに優れたディスクだと思います。強く推薦したいディスクの一つです。
ラファエル・クーベリック指揮
バイエルン放送交響楽団
録音:1985年6月6日
ORFEO(輸入盤 ORFEOR550011)実は、このディスクでの演奏会の前年に、ベルリンフィルの定期演奏会に登場したクーベリックは、やはりこのブルックナーの第9番を振っております。その模様は、このディスクのバイエルンでの演奏会本番の直前(1985年5月)にNHK-FMで放送されました。私個人は、その前年のベルリンでの演奏の方が、このディスクでの演奏よりも、クーベリックの健康面も合わせて考えると、良い出来であると思っていますが、一方でこのディスクは、クーベリックのバイエルン放送交響楽団とのラストコンサートに結果としてなった演奏でもあり、出来ることなら、どこかのレーベルからベルリンフィルとの録音も、今後ぜひ発売して欲しいと願っております。私がクーベリックを追憶し続けるためにも、ベルリンフィルとのブルックナー第9番は、このバイエルンとの演奏とともに絶対に欠かせない大事な演奏なのです。
ユベール・スダーン指揮
ザルツブルク・モーツァルテウム管弦楽団
録音:2002年5月2日、ザルツブルク祝祭大劇場でのライヴ
BMG OEHMS(輸入盤 OC102)実は、私の現時点での密かなお気に入りがこのディスクなのです。現在は東京交響楽団のシェフでもあるスダーンさんは、ヨーロッパの伝統に立脚しつつも、一方で新しい奏法や解釈を大胆かつ積極的に取り入れており、このディスクから聴こえてくる彼の指揮振りと演奏内容は、とても魅力的なものとなっています。一度でも良いですから、お聴きになられては如何でしょうか?
ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮
バイエルン国立管弦楽団
録音:1984年12月
ORFEO(輸入盤 ORFEO160851)全集に発展することを期待されながら、わずか3曲で中断してしまったサヴァリッシュのオルフェオ盤です。すでに忘れ去られた感もありますが、なかなかどうして、このディスクから聴こえてくるブルックナーの響きは、とても新鮮であり、またきわめて透明な美しい響きでもあるのです。客観的に見て、かなりの秀演だと思います。すでに事実上引退したサヴァリッシュが、結果的に全集を残さなかったことが残念でなりません。惜しみて余りある全集録音の中止でした。
(2007年11月30日記す)
(2007年12月20日、An die MusikクラシックCD試聴記)