An die Musik 開設9周年記念 「大作曲家の交響曲第9番を聴く」

ドヴォルザーク篇

文:青木さん

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 この曲のCDは手元に30種類近くあって、正直数回しか聴いていないのもあったりしますが、好きな演奏も多数。その中で傑出しているのはこの2枚ですね。

CDジャケット

ドヴォルザーク
交響曲第9番 ホ短調 作品95「新世界より」
ポール・パレー指揮デトロイト交響楽団
録音:1960年2月19日、デトロイト、キャス工業大学オーディトリアム
マーキュリー(国内盤:マーキュリー・ミュージック・エンタテインメント PHCP10218)

 パレー盤は〔快演〕と呼ぶにふさわしいもの。CDに記載された演奏時間は、”7:55/10:13/6:55/9:48 “というもので、お手持ちの他のCDとくらべていただければ異常さがわかります。最初はその高速テンポに唖然としましたが、これがちっとも慌しくなくて実に爽快、手ごたえ充分。なぜこんなにいいんだろう。猛スピードでも雑な演奏ではなくビシッと統制されていること、ストレートな構成感があること、リズムがしっかりしていること…いろいろ挙げることはできますけど、ひとことで言うなれば〔男っぽい心意気〕に貫かれているからでしょう。なので、そのハードボイルドな世界観に共感を持てない人にとっては受け入れにくい演奏かもしれません。デトロイト響の巧さやマーキュリー・サウンドの生々しい迫力はいつものとおり。シベリウスとのカプリングというセンスはイマイチですけど。

CDジャケット

サー・ゲオルグ・ショルティ指揮シカゴ交響楽団
録音:1983年1月 シカゴ、オーケストラ・ホール
デッカ(国内盤:ポリドール F35L50072)

 ショルティ盤は、そのパレー盤には乏しい〔堂々たるスケール感〕が圧倒的で、ちょっとリッパすぎるほどの演奏。タイムは”11:58/14:03/8:06/11:08”となっていて、かなり落ち着いたテンポ。第1楽章では提示部を反復しており、この曲の場合そうするとかなり頭でっかちなバランスになってしまうのですが、それでも〔1番カッコ〕の楽しみがあるので、やはりリピートは大歓迎です。しかも、第一主題を奏でるホルンの豪快さがこのCDの聴きどころの一つなので、それが繰り返されるというのは大きなヨロコビ。以下、聴きごたえ満点の充実した演奏が続きます。

 ところで、英国人に人気のドヴォルザークも、サー・ゲオルグにとってはレアなレパートリーです。録音はこれ一曲だけですし、実演でもほとんど採りあげなかったとのこと。スメタナやボロディンも同様で、彼はチェコ〜ボヘミアの音楽には興味がなかったとしか思えません。自伝でも言及がありませんし。そのせいか、このCDでもその手のローカル・カラーはさっぱり感じられず、〔雰囲気に乏しい演奏〕ということになるでしょう。その面ではパレー盤にも同じことがいえます。

 かつて評論家の出谷啓氏がスメタナ「わが祖国」のレコード紹介記事で、〔本場物〕としてのノイマン盤を「なんぼきいてもちっともええと思たことない」と批判し、「なにも見たこともないチェコの田舎なんか、本気になってなつかしがることもないやろ」と決めつけていました。ずいぶん乱暴な言いかたですし、ときには素朴な地方色などを楽しむのもいいものですが、原則論としては正鵠を射た意見だといまでも思います。

 

(2007年12月9日、An die MusikクラシックCD試聴記)