An die Musik 開設9周年記念 「大作曲家の交響曲第9番を聴く」

マーラー篇

文:Goodiesさん

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 初めて投稿させていただきます。

 マーラーの第9番と言うと、正規盤として聴けるものだけでも100種類はあろうかと思われますが、今回は以下のクーベリックを取り上げます。

LPジャケット

 

マーラー
交響曲第9番 ニ短調
クーベリック指揮バイエルン放送交響楽団
録音:1967年
DG(輸入盤 CD全集 463738-2、アナログ 独 139 345/46)

 クーベリックの第9番と言うと、演奏会場の変更で話題となり伝説の名演と言われる1975年の日本公演ライブ(audite AU 95.471)を推す方が多いようです。私は幸いにも当日生で聴く事が出来たのですが、これは確かに会場の異常な期待感(しかし観客の多くはマーラー目当てでチケットを購入した人ではなかったのですが)が充満した、当時としても尋常ではない雰囲気で行なわれた演奏会でした。クーベリック自身も自ら会場変更までして行なう演奏会と言う事で、相当の気合が曲の最初から感じられるものでした。演奏は記録されているCDからも分かるように大変充実した内容で、当時はマーラーの第9番を生で聴く機会がまだほとんど無かった聴衆にも大きな感動を与えていました。

 クーベリックは晩年の演奏がauditeから発売されるようになると、テンシュテットやケーゲルなどと同様に、カタルシスの巨人のような評価のされ方もあるようですが、私は彼の音楽は60年代から70年代初めまでに最も魅力を感じます。シカゴ時代はやや不遇に思えるものがありますが、DGと契約してからの10数年は非常に充実した期間で、ほとんどすべて名演と言えるものばかりです。どの作曲家のものもテンポがやや速めから中庸位で、あまり間を取らない繋ぎで演奏が進められるため、「素朴な歌心」とか「あっさりした味わい」などと言われて片付けられてしまう事が多いようですが、彼のこの時期の一番の魅力である、局部で急激な力を加えながら推し進める独特の演奏方法が生み出す充実感が、見過ごされているように思います。クーベリックの演奏はテンポを落として表現を落ち着かせるという方法をとらないため、基本的に演奏時間は短いものが多いのですが、そのテンポ感よりも演奏で語られる内容はずっと落ち着いていて充実しています。この点に目を向けてじっくりお聴きいただくと、クーベリックの世界がずっと広がって見えてくると思います。そういった点からDGのマーラー全集で最も充実しているのは第9番であると思います(8番も同様にもっと評価されるべき演奏と思いますが)。スタジオ録音の落ち着きとクーベリックの演奏にかける熱い闘志が良いバランスとなり、曲の持つ様々な要素が息を止めることの無い流れの中に表現されていきます。これに比べると来日公演のライブは気迫過多の部分もあって、じっくり付き合うにはスタジオの方が好ましいです。すでにこの演奏をお持ちの方も是非一度お聴き直しいただくことをお薦めします。

 もう一つマーラーの第9番というと決して忘れる事が出来ないのが、1984年にNHKFMで放送された、ベルティーニ、シュトゥットガルト放響のライブです。これはCDではないので、ここに書くのはどうかと思いましたが、80年代に聴くことの出来たマーラー演奏の一つの頂点として当時の音楽ファンの間では熱く語られたものですので、挙げさせていただきます。ベルティーニは後に全集をCDで完成させますが、90年代になると良くも悪くも巨匠風の演奏を目指すようになり、80年代の熱さは薄れていきます。個人的にはこの9番とNHK交響楽団に客演した頃、その前後にレコーディングした第6番と第3番あたりがに最も魅力を感じます。この9番がいつの日か正式にCD化されるのを心待ちにしています。

※クーベリックの9番はアナログは数種類持っていますが、CDは現在所持していないため、感想はアナログ盤によるものです。写真もアナログ盤ジャケットです。

 

(2007年12月5日、An die MusikクラシックCD試聴記)