An die Musik 開設9周年記念 「大作曲家の交響曲第9番を聴く」
シューベルト篇
文:青木さん
この曲には好きなCDがたくさんあります。ハイティンク指揮コンセルトヘボウ管(フィリップス,1975)やブロムシュテット指揮シュターツカペレ・ドレスデン(シャルプラッテン,1981)の暖かくふくよかな究極的美音。ショルティ指揮ウィーン・フィル(デッカ,1981)やケルテス指揮ウィーン・フィル(デッカ,1963)のソリッドでダイナミックなパワー・プレイ。いずれもたまらんCDで、「ザ・グレイト」の雄大かつ爽やかなる魅力を堪能できるのですが、それらのさらに上をいく極上盤がレヴァイン指揮シカゴ響だといっても、ほとんどの人は「はぁ?」みたいな反応でしょう。
シューベルト
交響曲第9番 ハ長調 D.944「ザ・グレイト」
レヴァイン指揮シカゴ響
録音:1983年7月11日 シカゴ、オーケストラ・ホール
ドイツ・グラモフォン(国内盤:ポリドール F35G 50140)彼らの録音は、マーラーやホルストやバルトークなどのモダンな大編成モノで本領を発揮している反面、バッハやモーツァルトやブラームスははっきり言って内容のない駄演でありまして、それから察するとシューベルトにもまったく期待できないはず。それが逆の結果なのだからクラシック音楽というのはおもしろいもんです。まあとにかく、朗々と鳴りきったオーケストラの開放的サウンドが曲想にピッタリ合ったこの気持ちよさは、なかなか味わえません。レヴァインは、上記のモツやブラのセカセカした速度とはうってかわって妥当な中庸のテンポを設定し、快適なリズム感の上でシカゴ響のビッグ・サウンドをひたすら全開させていくのみ。「ザ・グレイト」はそうしたアプローチでも最高の魅力を発揮するであろうことは、この曲を愛好される方なら想像がつくのではないでしょうか。DGの録音もすばらしく、このへんもモツやブラ(RCA)は差をつけられております。
ジェフリー・テイト指揮シュターツカペレ・ドレスデン
録音:1986年2月26日〜3月2日 ドレスデン、ルカ教会
EMI=シャルプラッテン(国内盤:東芝EMI CC33-3660、輸入盤:ETERNA 3 29 177)そして、このレヴァイン盤に匹敵するのが、テイト指揮シュターツカペレ・ドレスデン。前年に録音されたベト7と並ぶテイトの大傑作です。演奏の傾向は意外なほどレヴァイン盤に似かよっていますが、カペレの木質感のあるしっとりした響きはシカゴ響には望み得ないもの。さらにすべての反復が実践されているので、リピートに入る瞬間の楽しい気分をたっぷりと味わえます。繰り返しを省略した演奏では失望をおぼえるワタシにとって、これは重要なポイント。演奏時間は1時間を超えますが、それなりにメリハリの効いた演奏なのでダレることはありません。もっとも、延々と繰り出される美メロにひたすら身をゆだねるというのも、この曲の楽しみ方の一つだと思うのですけれど。CDは、アラウとデイヴィスの「皇帝」などと同じく、EMI盤よりもエテルナ盤のほうがよりカペレらしいサウンドに聴こえます。
(2007年11月30日、An die MusikクラシックCD試聴記)