An die Musik 開設9周年記念 「大作曲家の交響曲第9番を聴く」
ショスタコーヴィチ篇
文:青木さん
「第9交響曲といえば深遠または祝祭的な超大作を…」という当局や国民の期待に肩透かしをくらわせた因縁の作品、らしいです。”An die Musikアニバーサリー企画”のグランド・ファイナルがそんな曲でいいのか…と思ったりもしますけど、まぁそういった成り立ちはともかく、ここはショルティが言う〔幸せな交響曲〕という側面を楽しみたいところです。彼は1番とこの9番をそう呼び、ショスタコーヴィチの作品としてはそれらを最初にレパートリーにしたとのこと。デッカへの録音も、その両曲(とポピュラーな5番)にはウィーン・フィルやコンセルトヘボウ管を起用し、他のハードな大曲はシカゴ響と録音したわけですが、そのあたりのわかりやすさはショルティらしいですねぇ。
ショスタコーヴィチ
交響曲第9番 変ホ長調 作品70
サー・ゲオルグ・ショルティ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1990年5月5-6日 ムジークフェラインザール、ウィーン(Live)
デッカ(国内盤:ポリドール POCL1087)ベートーヴェンの第5番と組み合わされたライヴ盤。快速テンポで小気味よい雰囲気をかもし出しており、実演特有の熱気のようなものを別にすればわりとあっさりした演奏です。悪意が込められたパロディ的要素をアイロニカルにねっとり強調するような演奏も世にあるそうですけど、そんなのは好みではないので、このCDの簡潔でストレートな演奏は好ましく思います。ジャケットに”LIVE RECORDING”と赤書きされていたり盛大な拍手が入っていたりすることからもわかるように、これは〔スタジオ録音の代用としてのツギハギライヴ〕ではなく、純粋な実況録音盤に近いもの。なおショルティは、1994年にカーネギーホール・オーケストラル・プロジェクトでこの曲を再録音しており、傾向としては当然ながらほとんど同じタイプの演奏になっていました。
キリル・コンドラシン指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音:1980年3月6日 コンセルトヘボウ、アムステルダム(Live)
フィリップス(輸入盤:438 284-2)これもライヴ、しかも放送局の録音なので無編集の”REAL LIVE”だと思われます。軽妙洒脱さはたいして感じられず、ショルティよりもコワモテ。でもこのコンビの例えば「英雄」ほどストイックやスクエアではなく、コンドラシン好きにとってはユルい演奏でしょうけど、ワタシにはちょうどいい按配です。特に個人的な聴きどころは第4楽章。荒々しい金管のコラール風フレーズに続いて出てくるファゴットの雄弁な表情とコクのある音色、その鮮やかな対比にゾクゾクします。全体的にも木管群が重要な働きをする曲ということで、ロンドン・フィルの木管に魅力が薄いハイティンク盤は基本的には好演だと思いますけどその点でイマイチ。音彩の濃いヘボウの木管群はやはりすばらしい。弦楽の響きこそやや固めのコンドラシン盤ですが、それさえも木管とのコントラストを創出する要素となっているようで、いやぁこれは「コンセルトヘボウの名録音」ですなぁ。
なお、一般には5楽章構成とされる曲ですが、第4楽章を第5楽章の序奏と扱って4楽章構成とする場合もあるようで、手持ちのCDだとノイマン盤がそうなっています。ま、第3楽章以下は切れめなく連続して演奏されるので、どちらでもいいんですけど。(締まりのない幕切れですみません)
(2007年12月18日、An die MusikクラシックCD試聴記)