歴史小説と音楽
CD試聴記 番外編
この1年間というもの、女房さんの読書はすさまじいものがあります。経費節約のために、新刊書を買うのをやめた女房さんは、私の部屋に大量に並ぶ歴史小説に目を付け、片っ端から読破しているのです。以下に例を挙げてみましょう。
- 真田太平記(全12巻、池波正太郎)
- 三国志(全8巻、吉川英治)
- 新平家物語(全16巻、吉川英治)
- 徳川家康(全26巻、山岡荘八)
- 竜馬がゆく(全8巻、司馬遼太郎)
- 項羽と劉邦(全3巻、司馬遼太郎)
- 炎立つ(全5巻、高橋克彦)
よくもまあ短期間にこれだけ読んだなと思います。お陰で女房さんはすっかり歴史に強くなった、と言いたいところですが、女房さんが追っているのはストーリーだけで、知識としてはまるで身についていないようです。
ところで、上記歴史小説はベストセラーを続ける有名なものばかりですね。「三国志」以外はNHKの大河ドラマの原作になってもいます。私はかつては大河ドラマフリークでしたので、オープニング・テーマから真剣に聴き入っておりました。NHKでも大河ドラマのサントラ盤は毎年用意してくれるのですが、どうもテレビの画像がないとつまらないものばかりでした(今年はオープニング・テーマをシャルル・デュトワが指揮していますから、もしかしたら立派なサントラ盤ができるかもしれません)。私は、歴代の大河ドラマの音楽を良質な演奏と録音で聴きたいとかねがね思っていました。もしかしたら、そんなことを考えている人は他にもいませんか? 実はひとつだけいいCDがあるのです。
新日本紀行●富田勲の音楽
大友直人指揮東京交響楽団
録音:1994年
BMG(国内盤 BVCF-1525)
収録曲(赤字は大河ドラマ)
- 新日本紀行(オープニング・テーマ〜祭りの笛)
- ジャングル大帝(オープニング・テーマ〜ジャングルの王バンジャの出)
- 勝海舟(オープニング・テーマ〜咸臨丸の船出)
- 文吾捕物絵図(若狭の女〜オープニング・テーマ)
- 学校(オープニング・テーマ〜幸せっていうのは)
- 蒼き狼の伝説
- 二つの橋
- リボンの騎士
- 花の生涯(オープニング・テーマ〜村山たかのテーマ)
- 天と地と(オープニング・テーマ〜甲斐の軍勢〜越後の雪)
- 新平家物語(オープニング・テーマ〜無間地獄〜諸行無常)
- 徳川家康
- 決断
- 多様な国土(爺さんの里)
- 青い地球は誰のもの
富田勲さんはかつてシンセサイザーを使ってクラシックの名曲を演奏し、その録音はベストセラーになっていました。編曲ものが得意なのかと思っていたのですが、さにあらず。これだけの有名曲を作曲していたんですね。「ジャングル大帝」や「リボンの騎士」まで富田勲さんだとは私も気がつきませんでした。また大河ドラマ関係でもすごいですね。「天と地と」(上杉謙信もの)、「新平家物語」、「徳川家康」など、その壮大なスケールのドラマにふさわしい見事な音楽を聴かせてくれます。
例えば、「徳川家康」では時計の針がトコトコ動く音が冒頭に入っています。これは作曲家の説明によれば、「...表面は大石内蔵助と並んで<昼行灯>と言われながらも、腹の底ではいつも時計のようにトコトコとコンピューターが働いており、時代の変化となり動きを見つめていたのだ。...」とのこと。富田勲さん独自の解釈が音楽に盛り込まれているのであります。
私のお薦めは「勝海舟」です。原作の小説はあまり面白いとは言えませんでしたが、富田勲さんの音楽は幕末の快男児勝海舟そのもので、実に痛快です。音楽は咸臨丸上の勝海舟が大海に船出する意気軒昂の気分を表しています。大海原を飛び越え、世界に飛躍しようとする英傑の雰囲気が大オーケストラを使って見事に表現されています。
嬉しいのは、このCDに収録された曲は大河ドラマのオープニングに使われたものとは違うことです。テレビでは音楽の時間が制限されてしまいますが、原曲は作曲家の意図したイメージを完全に描き出しています。演奏も録音もよく、これなら歴史小説ファンも大いに楽しめるでしょう。
なお、このCDには富田勲さんによる詳細な解説が付いています。こうした内容のCDなら、国内盤を買ってもいいと思いますね。値段は2,500円でした。
2000年2月7日、An die MusikクラシックCD試聴記