バルビローリの熱烈マーラー
マーラー
交響曲第1番
録音:1957年
パーセル(バルビローリ編曲)
弦楽器、木管楽器、ホルンのための組曲
バルビローリ指揮ハレ管
録音:1969年
DUTTON(輸入盤 CDSJB 1015)昨年発売されて大人気となったCD。DUTTONはイギリスのレーベルで、国内盤は出ていない。したがって、輸入盤を取り扱っているCDショップを通さないと、このCDを入手できない。また、輸入盤で入ってきても、このCDはすぐ売り切れてしまう。DUTTONも量産はしていないのだろう。さらに、売り切れるのは人気があるからだが、DUTTONが大規模な宣伝をしているわけでもなし、不思議なことだ。音楽ファンというものは優れたCDを即座に嗅ぎ当ててしまうものらしい。
このCDに収録されているのはマーラーの交響曲第1番とバルビローリ編曲によるパーセルの組曲である。バルビローリのマーラーは、それだけで聴きたくなるが、ここでは余白も大変な聴きものである。バルビローリがパーセルの劇音楽から6曲を選び、編曲し、独自に並べ替えた組曲が面白い。組曲に使われたパーセルの劇音楽は以下のとおりである。
- 「難題解決」(1691年)
- 「貞淑なる妻」(1694?年)
- 「アーサー王」(1691年)
- 「アブデラザール」(1695年)
- 「ディドーとエアネス」(1689年)
うち、「アーサー王」からは2曲が取られている。バルビローリはこうした曲を演奏するのが好きなようだ。エリザベス朝時代の曲を並べたエリザベス組曲の録音もある。しかも、いかにもバルビローリらしいロマンティックな編曲になっているのが興味深い。何度も繰り返すが、古楽器あるいは古楽器の奏法を採用した演奏が一般化しつつある現代においては、バルビローリの演奏はかえって古めかしいということになりかねない。が、ロマンティックで切々としたバルビ節を聴くと、やはり何度も聴きたくなる。こんな魅力をもった演奏が古いのなら、新しいとは何なのだろうか。
閑話休題。メインのマーラーである。マーラーの第1交響曲は人気曲だが、うるさく感じることも多い。「いかにも聴衆受けを狙いました」というような第4楽章が鼻につく時もある。どうしてあんなに騒々しいのだろうか。金管楽器を全開にし、大きな音で華々しく演奏すれば、聴衆が喜ぶだろう、と考えたのだろうか。高度な技術をもつオケが演奏し、ハイレベルな録音を誇るCDを聴く度、面白いとは思うのだが、感銘は受けない。実演でも、この曲を聴いて感動したことはない。
しかし、バルビローリの演奏は、どうも違う。バルビローリはこの曲に内在する荒々しさを十分に表現しながらも、プラスαがある。熱い涙による泣きが入るのである。オケの音もバルビローリの指揮の下ではいつも温かさを感じさせる。どんなにうまいオケでも、私は冷たいサウンドを好きになれないが、ハレ管は本当にいい。超一流とは言い難いオケであるが、バルビローリとの組み合わせでは特にすばらしい温かみのある魅力を振りまく。
泣き節は第1楽章から明らかなのだが、第4楽章では徹底している。情熱的というべきか、感傷的というべきか、情緒的というべきか、とにかく、泣きが入りまくるのである。マーラーの1番でこれほど感情をさらけ出した演奏は珍しい。聴き手は、オケの技術を見せつけるのではなく、指揮者の溢れる涙を見せつけられるのである。これにはまいった。かなりこの曲を食傷気味であった私もつい感動してしまった。このCDが売り切れるわけは、きっとそうした演奏を他のクラシックファンも歓迎したからだ。熱烈な涙を見せられて、そして感動させられるのでは聴き手もたまったものではない。しかし、スタジオ録音盤でこんな感動を与えられるバルビローリとは、一体どんな人なのだろう。
なお、マーラーは1957年録音だが、れっきとしたステレオ録音でみずみずしいオケの音色が楽しめる。第4楽章の最強音ではさすがに音を全部収録しきれなかったようだが、迫力は十分。不満を感じることはないだろう。
2000年3月7日、An die MusikクラシックCD試聴記