ミヨーの「世界の創造」を聴く
ミヨー
バレエ音楽「世界の創造」作品81(録音:1961年3月13日)
プロヴァンス組曲作品152b(録音:1960年11月21日)
プーランク
オルガン、弦楽とティンパニのための協奏曲ト短調(録音:1960年10月9日)
シャルル・ミュンシュ指揮ボストン響
BMG(国内盤 BVCC-7929)BMGからRCA時代のミュンシュの録音がオリジナル・ジャケットで再発された。全25タイトルで、1枚物だと定価1,200円。限定盤だというし、どれか未架蔵盤(斉諧生音盤志の専門用語)を買っておいても損はないかな、と思ってミヨーのCDを買ってみた。これが思いのほか良かった。ミュンシュだからフランスものにハズレはないだろう、程度にしか考えていなかったのだが。
ミヨーの「世界の創造」は、タイトルとは裏腹におどろおどろしくない。ドイツ音楽愛好家なら、ハイドンの「天地創造」やワーグナーの「ラインの黄金」冒頭を思い浮かべると思うが、ミヨーは巨大趣味の神話的世界(特に後者)ではなく、樹木や動物、黒人のアダムとイブが現れるという一風変わった情景を描き、「世界の創造」としている。登場する生き物は、像、のろまな亀、不器用なかに、猿。さすがフランス人はドイツ人とは視点が違うわい、と感心する。そんな動物やら人間やらが登場する舞台はさぞかし奇妙な雰囲気がすると思うが、私は残念ながらそのバレエを見たことがない。きっとユニークで楽しいのであろう。
さて、この曲はミヨーがアメリカのジャズを取り入れた成果であるという。序曲が終わると、5つの音楽によって「世界の創造」が描かれる。その中心的な素材がジャズなのである。作曲されたのは1923年。アメリカのジャズはまだ黎明期で、いわゆるモダン・ジャズの時代ではない。なんとなくニュー・オリンズ・ジャズを彷彿とさせる。ピーヒャラピーヒャラという大道芸的なジャズが聴かれるが、これはサッチモの「聖者の行進」などに一脈通じるものがあり、思わずニヤリとする。これは本当に微笑ましい音楽だと思う。50年代を席巻したハード・バップを基調にしていては、こんな楽しい音楽にはならなかったはずだ。
ミュンシュの演奏は骨太である。洗練よりも硬派な音楽作りである。これは当時のRCAが、オンマイク気味の録音をしていたことにもよるだろうが、線の太さはやはりミュンシュならではだろう。19人の小編成オケであるが、全く逞しい音楽を聴かせる。軽音楽とどこも変わらないような軟弱なスタイルをミュンシュは嫌っていたのかもしれない。実に堂々としていて、貫禄十分。軽妙なジャズの雰囲気を出すよりも、ぶっとい線でミヨーの意図したジャズを鳴り響かせたという気がする。
なお、このCDには、ミヨーのプロヴァンス組曲のほか、プーランクの「オルガン、弦楽とティンパニのための協奏曲ト短調」が収録されている。聴き応え十分の名曲なのでお薦め。
ところで、ミヨーの「世界の創造」には、他にもいくつか有力な演奏があるようだ。私のCD棚からプレートル指揮のCDを取り出せなかったので、参考までにバーンスタイン盤をご紹介する。
ミヨー
バレエ音楽「世界の創造」作品81
「ブラジルの郷愁」より
バレエ音楽「屋根の上の牛」
バーンスタイン指揮フランス国立管
録音:1976年11月
EMI(国内盤:TOCE-3446)これはミヨーの曲だけを集めたCDで、CDジャケットからは「世界の創造」のステージの模様が窺える。おそらく大きなLPジャケットでは、この奇妙な風景を楽しみながら聴けたのだろう。バーンスタインの演奏は、少し上品で洗練されている。私は、ジャズはもう少し粗野だと思うから、少し抵抗があるのだが、ミヨーはジャズを書いたのではなく、ジャズを素材として利用したクラシック音楽を書いたわけだから、好き・嫌いは趣味の問題になる。
このCDの良さはバレエ音楽「屋根の上の牛」が収録されていることだ。これまた奇妙なタイトルの曲だが、脳天気な屈託のない音楽である。私はこんな音楽を書きまくったミヨーという作曲家はとてもいい人だったのではないかと思うのだが、どうなのだろう。
2000年7月18日、An die MusikクラシックCD試聴記