MR.Sの「ロマンティック」を聴く
ブルックナー
交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
スクロヴァチェフスキー指揮ザールブリュッケン放送響
録音:1998年10月25-28日
ARTE NOVA(輸入盤 74321 72101 2)私はスクロヴァチェフスキーが好きなので、しつこくこのページに取り上げてきた。お陰で最近では「An die Musik CD試聴記」の常連指揮者になってしまった。この指揮者は所属していたレーベルがマイナーで、しかもコマーシャルベースにおけるメジャー・オケに君臨しなかったというだけで、過小評価されてきた人だと思う。私は、スクロヴァチェフスキーは実力的には第1級なのではないかと思っている。私はこの人のブルックナーシリーズがARTE NOVAから発売されるまで、その名前も知らなかったが、本当に恥ずかしいことだ。もしかしたら、マイナーレーベルにはこうした実力者がまだまだ埋もれているかもしれない。
スクロヴァチェフスキーのブルックナーシリーズは残すところ2番と9番だけとなった。デジタル録音による旧盤がある「ロマンティック」を再録音したところをみると、第9番もザールブリュッケン放送響と再録音してくれそうだ。そうなれば、ARTE NOVAでスクロヴァチェフスキーのブルックナー全集が完成することになる。おそらく希に見るハイ・パフォーマンス全集となるだろう。何となれば、全曲演奏よし、録音よし、そして値段よしときているからだ。
この「ロマンティック」は、演奏も録音状態も、前作までを知っているファンなら説明の必要もない立派なものだ。ドイツの一地方オケに過ぎないザールブリュッケン放送響も力演・好演していて、とても頼もしい。プロの評論家の書いたレビューを読むと、このオケを貧弱だとか書いてあるが、私はそう思ったことはない。録音で聴く限り(これがくせ者であることは百も承知だが)、張りと艶がある良いオーケストラで、スクロヴァチェフスキーの魔人のごとき指揮に応え、万全の演奏をしているように思える。少なくとも、これだけ力感溢れる演奏をしているオケを貶す気になどなれない。
演奏の特長は、スクロヴァチェフスキーが音楽の骨格を逞しく描き出していることである。骨格が浮き出て見えるようだ。別の表現をすれば、立体的な描き方をしている。悪く言えば鋭角的すぎるのだが、私は大いにプラスの評価をしたい。スクロヴァチェフスキーがブルックナーの長大な交響曲を演奏していて決してだれることがないのは、常に骨組みを明確にしているからだと私は思う。スクロヴァチェフスキーの指揮で聴くと音楽の構成を上手に見せてもらっているような気になるので、とても分かりやすく、存分に楽しめる。イメージ的には硬い職人のようだが、これほど分かりやすい音楽作りをし、聴き手を満足させうるサービスを提供できるとなると、本当にただ者ではないと思う。演奏はどの楽章も立派だが、特に第4楽章は秀逸。晦渋な構成を持つ曲だが、スクロヴァチェフスキーは本当に聴かせ上手だ。私は壮麗な音響の上に成り立つブルックナーの美を堪能してしまった。
さて、多くの読者は「では、旧盤とはどう違うのか?」と思われるだろう。ついでに簡単に比較してみよう。
ブルックナー
交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
スクロヴァチェフスキー指揮ハレ管
録音:1993年?
CARLTON Classics(国内盤 30367 00282)これも廉価盤で1,300円。ついこの間まではスクロヴァチェフスキーが再録音するとは思われなかったので、このCDはスクロヴァチェフスキーの「ロマンティック」を語る上で、はずせなかったはずだ。基本的な解釈は変わらず、演奏時間もほとんど同じ。音楽の骨組みをきちんと浮き立たせるような演奏をする点も同様。
では「どこか違うのか」と言えば、違う。この旧盤も優れた演奏をしているのだが、新盤では立体的なスケール感が圧倒的に強く、スクロヴァチェフスキーもそれを徹底して追及しているようなのだ。新盤では録音がかなりオンで、オケの強烈な爆発的サウンドまでをよく捉えているのだが、旧盤では少し物足りない。そうしたところがスクロヴァチェフスキーを再録音に駆り立てたのかもしれない。ただし、これとて優れた演奏で、スクロヴァチェフスキーのブルックナーのエッセンスが聴けることに変わりはない。ファンなら両方持っていてもよいだろう。両方買っても2,070円だ。こんなに安くて本当にいいのだろうか。もったいない気がする。
2000年2月8日、An die MusikクラシックCD試聴記