朝比奈隆、追悼
2001年12月29日、朝比奈隆さんが亡くなりました。ここ数年間は、ステージに登るたびにCDが発売されているのではないかと思われるほどの人気でした。一体何種類のブルックナー録音があるのか、私はつかみ切れません。CDショップの国内盤売場で「ブルックナー」の項に当たると、朝比奈隆さんのCDがたくさん並んでいます。いかにファンが多かったか分かりますね。
この、ブルックナー演奏で有名な故人を偲ぶのであれば、やはりブルックナーの録音を聴きたいものです。その場合、私にとってはこの録音に尽きます。
ブルックナー
交響曲第7番ホ長調(ハース版)
朝比奈隆指揮大阪フィル
録音:1975年10月12日、聖フロリアン寺院
VICTOR(国内盤 VDC-1214)聖フロリアンのブルックナー演奏としてあまりにも有名なこの録音ですが、朝比奈隆さんが亡くなってから聴いてみると、まるでその葬送のためにあるのではないかと錯覚されるほど清澄な演奏をしています。聖フロリアン寺院、マルモアザールは残響が7秒にも及んだといいます。そのため、朝比奈隆さんはいつもよりさらにゆったりとしたテンポをとりつつ、金管楽器を極力抑制した演奏をします。旋律線は主として弦楽器が奏で、その上に木管楽器が重なり、金管楽器はそれらに寄り添って伴奏をつけるといった趣になっています。そのため、音楽は驚くほど清澄な響きに満たされています。気のせいか、第1楽章から既に哀愁が漂うような演奏になっているのです。
こうしたブルックナー演奏は珍しいように思います。ブルックナー演奏の面白いところは金管群による強力かつ輝かしいファンファーレでもあります。多分、世の中で名演奏と呼ばれているブルックナーの交響曲第7番では金管楽器を前面に押し出し、輝かしさを演出しているはずです。これほど金管楽器を押さえた演奏は少ないでしょう。少なくとも、私はすぐに思い出せません。これも聖フロリアン寺院で演奏できたからなしえたことです。朝比奈隆さんにとっても会心の出来映えであっただろうこの演奏は、聖フロリアン寺院の残響に妨げられながら行われたようでいて、実はフロリアン寺院の懐に抱かれて行われたとしか考えようがありません。
では、「同じように他の団体が金管楽器を押さえて演奏すればこのようになるのか?」といえば、多分そうはならないでしょう。どうもこの演奏は朝比奈隆さんと大フィルがブルックナーの聖地で演奏するという感激を露わにしているようです。ふだんコンサートで聴く大フィルとは音がまるで違って聞こえてきます。この演奏は一期一会のなせるものです。だからこそ、この演奏は価値があるのだと私は思います。録音は1975年。朝比奈さんは、このような演奏を四半世紀も前に行っていたんですね。
朝比奈隆さんのご冥福をお祈りいたします。
2002年1月5日、An die MusikクラシックCD試聴記