ケーゲル指揮の「アルルの女」を聴く

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CDジャケット

ビゼー
「アルルの女」組曲第1番
「子供の遊び」作品22
歌劇「カルメン」から第1幕〜第4幕への前奏曲
「アルルの女」組曲第2番
ケーゲル指揮ドレスデンフィル
録音:1986-87年、ルカ教会
BERLIN Classics(輸入盤 0094772BC)

 ご存知「斉諧生音盤誌」にこのCDに対する大変好意的な紹介文が載っていたので購入。地元浦和のCDショップにはこれ1枚しかなかったが、新宿の大手ショップには大量の陳列があった。もしかしたら、現在ものすごい勢いで売れているCDなのかもしれない。皆さんはもうこのCDを聴かれただろうか? このページの読者で、まだ聴いていない人がいるならば、ぜひ購入して聴いてみることを強くお勧めする。中学校の時に音楽の時間に聴かされて以来、さほど深みのある曲とも思われなかった「アルルの女」組曲が今までとは全く違った音楽としてあなたの前に登場するはずだ。

 第1組曲の前奏曲はスタッカート気味に奏されつつ開始するが、ここから非常に深みのある音楽が展開される。斉諧生さんも書いておられるが、アダージェットなどはマーラーばりの叙情性を併せ持つ。全曲が耽美的で、軽快さなどはあまり感じられない。が、音楽の美しさはどんなにこの曲に食傷した人でさえも虜にするだろう。最も優れているのは、第2組曲冒頭の「パストラーレ」であろう。実に雄大な音楽が聞こえてくる。構えが大きいのか、巨大な交響曲の一章を聴いているようにしか思われない。中間部でフルートとクラリネットが絡み合ってくる場所もフランスの一地方の雰囲気よりも、何か抽象的なものさえ感じさせる。

 このような録音が1980年代に旧東ドイツで行われていたとは。かつては別の形でCDが発売されていたそうだが、BERLIN Classicsから良質な音質で発売されたのは大変喜ばしい。私に限って言えば、この曲に対する認識はケーゲル盤によって一新された。

 ところで、ケーゲルについて皆様はどのようなイメージをお持ちだろうか? 実は、私は名前はよく知っているが、あまり聴いたことがなかったのである。ずっと敬遠してきた。というのも、一部の音楽メディアで騒がれ過ぎたことによる。ちょっと胡散臭い紹介をされすぎていると感じているのは私だけではないはずだ。このCDが再発されるのも私は知っていた。しかし、私にこのCDを買う気にさせたのは、激烈な表現によって音楽よりもケーゲルその人を予定調和的に悲劇的結末と絡めて紹介したがる幾多の文章ではなく、常に良識ある書き方をしてこられた「斉諧生音盤誌」の紹介文なのである。もし「斉諧生音盤誌」にこのCDの紹介文がなければ、いくらCDショップや一部の音楽メディアが騒ぎ立てようとも、いや逆にそれがゆえに私はこのCDを手にすることはなかっただろう。「アルルの女」は類い希な名盤だと思う。もしかしたらケーゲルにはもっとすごい演奏もあるのかもしれない。だが、その音楽以外のことや予定調和的な言辞はどうしたものかと私は思う。あやうくこの名盤を知らずに人生を送ってしまいそうになった私(冗談ではなく)としては複雑な気持ちである。

 

2002年9月8日、An die MusikクラシックCD試聴記