ヒラリー・ハーンを聴く

−クラシック音楽を聴く楽しみに浸る−

ホームページ WHAT'S NEW? CD試聴記


 
 

 12月初旬、我が家に訪れたお客さんから私は「今のヴァイオリニストならヒラリー・ハーンがいいよ」と教えられました。恥ずかしいことですが、私はそれまでヒラリー・ハーンについては名前と、たいそう若年であることしか知りませんでした。私はそのお客さんの耳が確かであることを知っていますので、翌日地元のCDショップに走りました。いくつかのCDを買い込んだ私は、1枚ずつ聴き始めました。そうして私が気がついたのは、どうもこのヒラリー・ハーンというアメリカの若手は大変な才能の持ち主であるということでした。まず、驚異的なのはこのデビューアルバムです。

CDジャケット

バッハ
無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番ホ長調BWV1006
無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番ニ短調BWV1004
無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第3番ハ長調BWV1005
ヴァイオリン:ヒラリー・ハーン
録音:1996,97年
SONY CLASSICAL(国内盤 SRCR 1994)

 このバッハを録音したのはヒラリー・ハーンが17歳の頃だといいます。なるほど、CDジャケットを見ますと、まだちょっぴりあどけなさが残る顔が写っていますね。しかし、このバッハはすばらしい! 私はこのCDを知って以来、ほぼ毎日聴き続けてしまいました。音楽が直接飛び込んでくるというべきか、実に心に沁みいってくる演奏です。ソナタ第3番の第2楽章ではもう少し先鋭さがあってもいいかなとは思いますが、それも贅沢というもの。シャコンヌの響きにはただ感動するのみです。私はこのCDで完全にノック・アウトされ、以後、ヒラリー・マニアと化したのです。このCDを聴いているだけでも私は幸せな気持になります。そうです。ちょっと大げさですが、「クラシック音楽を聴く楽しみに浸る」ことができるのです。

 それにしても、このような演奏を17歳でやり遂げてしまうとは・・・。ヴァイオリン奏者はやはり10代のうちに大成してしまうものなのでしょうね。おそらくはヒラリー・ハーンの代表的な録音として今後も語り継がれるのではないかと私は思っています。

 さて、このヒラリー・ハーン、その後も順調に録音活動を続けているのですね。私は結局全録音を揃えてしまったようなので、この場を借りて簡単にご紹介します。

CDジャケット

ベートーヴェン
ヴァイオリン協奏曲ニ長調 作品61
バーンスタイン
セレナード
ヴァイオリン:ヒラリー・ハーン
ジンマン指揮ボルティモア響
録音:1998年
SONY CLASSICAL(輸入盤 SK 60584)

 バッハ録音の翌年は何とベートーヴェンを録音していたんですね! カップリングにはバーンスタインの「セレナード」。古典的な曲と20世紀の曲を組み合わせるパターンはこの時から始まっているようです。ベートーヴェンではヒラリー・ハーンのしなやかな音楽性が垣間見られます。バーンスタインの「セレナード」はヒラリー自身がかなり楽しんでいるような風情が感じ取れます。なお、ジンマン指揮のボルティモア響も好演しています。

CDジャケット

バーバー
ヴァイオリン協奏曲 作品14
エドガー・メイヤー
ヴァイオリン協奏曲
ヴァイオリン:ヒラリー・ハーン
ヒュー・ウルフ指揮セント・ポール室内管弦楽団
録音:1999年
SONY CLASSICAL(国内盤 SRCR 2571)

 ベートーヴェンの次は意表をついて現代音楽。といってもバーバーは1939年、メイヤーは1999年の作曲です。メイヤーの曲はヒラリー・ハーンのために書かれ、もちろん彼女が初演し、彼女が世界初録音をしたわけです。いわゆる「現代音楽」を想像していた私はこのCDを一番最後に購入したのですが、バーバーもメイヤーも抒情性に満ちた非常に美しい曲でした。メイヤーの曲は半分「癒し系」といいたくなるほどロマンチックです。ヒラリー・ハーンの表現力と2協奏曲の豊かな音楽を満喫できる好企画CDで、お薦め度はとても高いです。

CDジャケット

ブラームス
ヴァイオリン協奏曲ニ長調 作品77
ストラヴィンスキー
ヴァイオリン協奏曲ニ長調
ヴァイオリン:ヒラリー・ハーン
マリナー指揮アカデミー室内管
録音:2001年
SONY CLASSICAL(輸入盤 SK 89649)

 これはヒラリー・ハーンのヴァイオリンの妙技を堪能できる驚くべきCDです。ヴァイオリンの音色は冴え渡り、切れ味鋭く、光り輝き始めそうです。ブラームスの第1楽章は特に圧巻です。CDジャケットは何だか冴えないですが、音楽の燃焼度、内容の充実度は最高です。

CDジャケット

メンデルスゾーン
ヴァイオリン協奏曲ホ短調 作品64
ヒュー・ウルフ指揮オスロフィル
ショスタコーヴィッチ
ヴァイオリン協奏曲第1番イ短調 作品77
ヤノフスキ指揮オスロフィル
ヴァイオリン:ヒラリー・ハーン
録音:2002年
SONY CLASSICAL(輸入盤 SK 89921)

 2002年12月時点でこのCDはヒラリー・ハーンの最新録音となります。メンデルスゾーンにショスタコーヴィッチといういかにもヒラリー・ハーンらしい組み合わせとなっています。この後彼女はきっとチャイコフスキーやシベリウスを録音してくれるのだと思うのですが、一体どの曲をカップリングするのか今から興味津々です。

 ところで、このCDはメンデルスゾーンを聴くというよりはやはりショスタコーヴィッチがメインになってしまいます。長く、多彩な表現力を要求されるこの曲をヒラリー・ハーンはとても楽しく聴かせてくれます。もはや貫禄の演奏といえるでしょう。

 

2002年12月25日、An die MusikクラシックCD試聴記