ブルックナー
交響曲第4番変ホ長調「ロマンティック」
交響曲第5番変ロ長調
ケンペ指揮ミュンヘンフィル
録音:1975,76年 ACANTA
タワーレコードの広告を見ると、あのケンペのブルックナー・ロマンティックと5番が限定発売と出ている。しかもこの機会を逃すともう今後はかなり入手困難になるから、急いで(?)買えとある。克己心がまるでない私はすかさず入手してしまった。
2曲のうち有名なのはこの5番の方で、私が高校の時から名盤の誉れ高かった。が、10年ほど前オリジナルジャケットで出ているのを一度だけ見たことがあるだけで、その後どこにも見あたらなくなった幻の演奏である。
感想。これは今までのどの演奏とも違った不思議な演奏だ。かなりゆったりとしたテンポを取っているが、それだからって変わっているわけではない。弱音が多用されているというのもそれだけでは変わっているとはいえない。いろいろな要素が複雑に絡み合っている。淡々とした表情というのも特徴なのだが、それでいて雄大そのものだ。またブルックナーに求められる渋い音色、寂寥感、ダイナミズム、輝きが不思議な調和を見せている。
特筆すべきは、巨匠ぶった表情付けが全くないのに生まれてくる音楽が実に堂々としていることだ。全曲は巨人のゆっくりとした歩みを見るが如しで、呆気にとられているうちに終わってしまう。今まで数多くのブル5を聴いてきたが、こんな演奏が他にあっただろうか。ケンペは職人的な指揮者だったらしいが、おそらくはそうだったのだろうと思う。今でこそミュンヘンフィルはブルックナー演奏で有名だが、これはケンペの卓越した指揮がなければできない演奏だろう。いくらスタジオ録音だからって、ここまで持っていくのは並大抵の手腕ではないと思う。
こんな演奏がなぜ埋もれたままになっていたのかいまだに不思議なのだが、このうえはもう一つの幻、ケンペがチューリッヒ・トーンハレ管と入れたブル8が復刻されないものか、鶴首する次第である。
なお、ここに収められているロマンティックは5番に比べればまだ常識的な演奏といえる。テンポも普通だし、上記ブル5と違って輝かしい演奏といって良い。5番が普通でないだけに印象が薄くなるのだが、それでもブルックナー演奏としては見事なものなので追記しておきたい。おそらく一般的にはロマンティックの方が受けがいいのではないかとも思う。2枚組で2,390円だった。本当になくなってしまうらしいから、ブルックナーファンはこの機会に買っておく方がよいのでは?
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