ヴァントのブルックナー

An die Musik最初のCD試聴記です。大変未熟な内容ですが、何卒ご容赦下さい。

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CDジャケット

ブルックナー
交響曲第4番「ロマンティック」
ヴァント指揮ベルリンフィル
録音:1998年 BMG

 ヴァントのベルリンフィルシリーズ。同じコンビによるブルックナー5番がすばらしい出来であっただけに今回もかなり期待されたCDだが、この4番「ロマンティック」はそれを上回る出来ではないかと思う。出だしからしてすごい。弦楽器のトレモロの上にホルンによる主題が奏でられるのだが、ベルリンフィルの表現が秀逸で、たちまち引き込まれてしまう。ヴァントの「ロマンティック」は北ドイツ放送響との録音があり、それは北ドイツ放送響ブルックナーライブ録音シリーズの中でも出色の出来ではあったのだが、今回の録音はそれと解釈に違いがあるわけではないのに、全く別人の指揮に聞こえてしまう。これはひとえにベルリンフィルの優れた演奏によるものだが、アバド指揮の下でこのような演奏が可能だとはとても考えられないのだから、やはりギュンター・ヴァント、恐るべし!である。

 演奏はブルックナーの響きが充溢し、これでもかこれでもかと最高の瞬間を味わわせてくれる。この曲はホルンの朗々たる響きが至るところに現れるために、ウィーンフィルによる演奏が注目盤として取り上げられることが多いが、ベルリンフィルだって負けてはいない。ブルックナー演奏に見事な適性を示している。これほど完成度の高いブルックナーの4番はなかなか考えにくい。おそらくクラシックCDでは今年最高の収穫であろう。まだ買ってない人がいたら、すぐレコード屋に走るべし!録音もすばらしい。

 ヴァントとベルリンフィルのコンビでは、近頃、ブルックナーの9番がフィルハーモニーで演奏されたが、これもヴァントの得意としている曲だけに、一刻も早いCD化を望みたいところだ。

非推薦盤

ブラームス
交響曲第4番
ヴァント指揮北ドイツ放送響
録音:1997年 BMG

 ヴァントでもう一つ。

 昨年末、ヴァントのブラームスは交響曲1番から3番までがまとめてリリースされ、好評を博した。ただし、4番がないことが非常に惜しまれたわけだが、ようやく登場した。日本先行発売。日本でのヴァント熱の現れか。

 ブラームスの4番は、私の最愛の曲であるので、大変期待して聴いた。何度も聴いた。が、どうも気に入らない。世の熱烈なヴァントファンには申し訳ないのだが、少なくとも私にとっては満足できる演奏ではない。私が保守的な趣味の持ち主であるせいか、ヴァントの演奏はあまりにもドライに聞こえる。よく言えば純音楽的で、抽象的なブラームスだ。でも、私にとってのブラームスは、ちょっと違う。暗い情熱を表現して欲しいし、人生を回顧するような趣が欲しい。

 恥ずかしながら、私はこの曲に関しては所謂「情緒纏綿」な演奏を望む。例えば、バルビローリとか、ワルターの演奏が理想の一つである。そういった演奏が私のデフォルト値となってしまっていて、もうどうにもならない。

 そういえば、ヴァントは元々、そのような「情緒纏綿」型の演奏など、全く目指していないのだ。他の演奏を聴けばよくわかるのに。ヴァントは、だからこそブルックナーで成功しているのだ。今回だけ何で気がつかなかったのか? それを思う出すにつけて、「ああ、これは失敗だった」と感じずにはおれない。

 

 

CDジャケット

ベートーヴェン
ピアノ協奏曲第4、5番「皇帝」
クーベリック指揮バイエルン放送響
ピアノ独奏カーゾン
録音:1977年 audite

 なかなか豪華な組み合わせのCDだ。ベートーヴェンの名曲が2つ。指揮もソリストも超一流だ。しかもクーベリックの本領が発揮されるライブ録音。

 演奏は期待を全く裏切らない。この演奏、大声で騒いだり、暴れたりするベートーヴェンとはほど遠い。高貴な感じがするし、良い意味で上品だし、なんだか哲学的ですらある。指揮者とソリストの美質が見事に結びついた幸せな演奏といえるだろう。

 ピアノは美しさの限りだ。例えば、「皇帝」の第2楽章。祈りに満ちているこの曲でカーゾンのピアノが冴える。ピアノの音色がきらきら輝いていて、しばし陶然となってしまう。もちろん、「皇帝」というと、豪華さやきらびやかさもイメージとして必要だが、それにも事欠かない。クーベリック指揮のバイエルン放送響もいい音を出している。さすがクーベリックのオケだ。

 録音は、バイエルン放送響会による。アナログ期の大変自然なプレゼンスで好感が持てる。バイエルン放送局にはこんな演奏のテープが山ほど眠っているのだろうか。

CDジャケット

ベートーヴェン
交響曲第3番「エロイカ」
シェルヒェン指揮ルガノ放送管
録音:1965年 PLATZ

 ついに出た!いや、とっくに全集は出ていたのだが、ばら売りされることになったのだ。

 これはご存じのとおり、あの有名なベートーヴェン・ライブ録音の一つ。ものすごい演奏だ。猛烈である。まさに疾風のごとき演奏。噂には聞いていたが、やたら気合いが入っている。人によっては「狂っている」と批判するのだろうが、目の前でこんな演奏が繰り広げられれば、感動してしまうのは間違いない。

 シェルヒェンさん、あちこちで盛大にうなり声をあげている。しかも、ここぞというところばっかりでやっていて、うるさいといえばうるさいのだが、あまりの迫力に最後まで押されっぱなしになり、うなり声まで楽しんでしまった。これは今時まずお目にかかれない、熱い演奏だ。オケの音色がやや貧弱なのだが、気にならなくなる。よくぞここまで指揮者についてきてくれたな、という感慨ひとしおだ。

 

 

CDジャケット

ブルックナー
交響曲第8番
ケーゲル指揮ライプツィヒ放送響
録音:不明 PILZ

 秋葉原で680円!で売っていたので、思わず買ってしまった。ドイツの壁崩壊後にピストル自殺したケーゲルのこのCDが存在するのは知っていたのだが、なかなか目にすることがなかった。PILZというレーベル自体、社長が牢屋に入っていて消滅している。どういう流通経路をたどって入荷したのかわからないが、入荷するや否や安売りされてすぐなくなってしまう。運良く買えた、というところか。

 内容は、680円ではかなりおつりがくる。このCD、すさまじい熱気に満ちているのが特徴だ。第1楽章から第4楽章のコーダまで燃えたぎっている。そのせいか最初から最後まで息もつかせぬままに聴かせる。つまり全く弛緩するところがない。いわゆる激烈感情移入型なのだが、非凡だ。ハイティンクのブル8などと比べると、まさに「月とすっぽん!」という感じがする。この演奏からはケーゲルのブルックナー指揮者としての適性はもとより、渾身の力を込めてこの曲に対峙している姿がはっきりと見て取れる。頭を垂れるばかりだ。なぜ自殺してしまったのか。本当に惜しい指揮者だ。

 惜しむらくはオケの技術なのだが、それを補ってあまりある力強い響きだ。小さな傷を探すために聴くならともかく、この演奏の生命力を否定する気にはとてもならない。

 

1998年10月8日、An die MusikクラシックCD試聴記