ベートーヴェン
ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品61
ヴァイオリン:カール・ズスケ
マズア指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管
録音:不詳
BERLIN Classics(輸入盤 0093092BC)
どういうわけか、録音年月がこのCDの解説には記載されていない。デジタル録音で、しかも、録音場所は1981年に完成した新ゲヴァントハウスで行われているから、80年代であることは確かだろう(二次資料によれば87年録音らしい)。
このCDは録音がすばらしい。音量を上げても決してうるさくならず、かといって大手レーベルのCDに多く見られるような、各楽器の音がバラバラに聞こえる奇妙なミキシング処理も施されていない。実に好ましい録音だ。旧ドイツ・シャルプラッテン社はデジタル移行が最も遅れたレーベルだったが、私はそれを大変好ましいと思っていた。アナログの良さを認め、むやみに新技術に走ることなく、優れた演奏の優れた録音を出し続けた同社の姿勢を私は高く評価していた。現実的には資金繰りが厳しくて、デジタル機器を買えなかったからではないかと思ってはいたのだが(^^ゞ、こうしてデジタル録音による優れた音質のCDを聴くと、アナログ録音で培った技術が上手に活かされていることにほっとする(ついでにいうと、旧ドイツ・シャルプラッテン社のLPやCDはジャケットデザインは質素ではあったが、センスが良かった)。
さて、このベートーヴェンは驚くほど晴朗な演奏だ。壮大さや雄渾さとは無縁の演奏で、不純物がまるで介在しない澄み切った音楽を聴かせる。もともとベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は祈りに満ちた曲だから、男性的なパワーを感じさせることはあまりない。しかし、それでもベートーヴェンらしく立派な風格を見せつける演奏もあるのに、ここではその気配すら感じられない。オケの音はいつになく艶やかに聞こえる。乾いた感じなどしない。また、少しは重量感もあるようだ。特色に乏しいといえば全くそのとおりになるのだが、このような清らかなベートーヴェンはそれだけで価値がある。他に類例が思いつかない。少なくとも、CDでこの演奏が残されたことは実にすばらしい。
この協奏曲でソロを担当するズスケは1934年生まれで、旧東ドイツの逸材である。1977年以降はゲヴァントハウス管のコンサートマスターとして活躍する一方、ベルリン弦楽四重奏団を結成し、室内楽の分野でも優れた業績を残している。中でも、ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲集はズスケの面目躍如たる傑作で、みずみずしく清新な音楽に思わず頭を垂れてしまう。ズスケは、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲で見せた音楽作りをここでは協奏曲に適用したのではないか?あの後期弦楽四重奏曲の名演奏を知っている私としては、マズアとの協奏曲演奏においては完全にズスケがリーダーシップを取り、マズアは唯々諾々とズスケに従ったように思えてならない。おそらくそうだろう。
気になるのはオケに独自のカラーがなくなってしまっていることだ。このCDにおける演奏スタイルが独自の味付けや濃い音色の表出を拒否しているのは確かだが、やや蒸留水にも似た特色のないオケになっているように聞こえる。もしかしたら私の気のせいかもしれないが、どうなのだろう。
なお、このCDにはマズアの指揮法のお師匠様だったボンガルツ指揮による小品が3曲収録されている。曲目等は以下のとおり。
ベートーヴェン
ボンガルツ指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管
録音:不詳(1971年頃か?)
- ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンス第1番ト長調作品40
- ヴァイオリンと管弦楽のためのロマンス第2番ヘ長調作品50
- ヴァイオリン協奏曲ハ長調Wo5(断章)
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