ブルックナーの難曲?を聴く

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CDジャケット

ブルックナー
交響曲第3番ニ短調
スクロヴァチェフスキー指揮ザールブリュッケン放送響
録音:1996年 
ARTE NOVA(輸入盤 74321 65412 2)

 金子建志さんの著書「こだわり派のための名曲徹底分析 ブルックナーの交響曲」(音楽之友社)で朝比奈隆氏が次のように述べている(p.54)。

 (新日フィルの)定期演奏会は、1年にそう何回もありませんから、「それじゃ、ブルックナーの”いいところ”だけ取り出して、まとめてやろうか」という話になりました。あまりゴテゴテせずに<4,5,7,8番>と選んだわけですが、このあたりは作品として問題がないし、聴衆にも親しみやすい。<3番>なんて、かなわないですからね(笑)。

 ブルックナー指揮者としてその名を世界に轟かせている朝比奈隆氏が、ブルックナーの第3番についてはかなり低い評価しかしていないことがこの文章を読むとよく分かる。朝比奈氏は他にもこの本の中で、演奏効果が上がらないことをこぼしている。演奏する立場から見れば、ブルックナーの第3番は難物なのだろう。私もブルックナーファンであるから、ブルックナーの交響曲はひととおり聴くので、朝比奈氏の言い分が分からないでもない。原因は終楽章にあるのではないか? この第3番の終楽章はやはり分裂しているように思える。最後に第1楽章冒頭のラッパによる主題が長調になって回帰して終わるわけだが、唐突な感じはどうしても否めない。もしかしたら、この第3番は傑作とは言えないのかもしれない。演奏の難しさを考えると、難曲であろう。しかし、いい演奏はある。しかも、聴き応え満点で聴衆をうーんと大きく唸らせ、作品の欠点を補って余りある名演奏である。最近もいいCDが出た。スクロヴァチェフスキーの新譜である。

 このブルックナーにはスクロヴァチェフスキーが第5番や、8番、9番で見せた鋭角的な表情があまり見られない。第4楽章はスクロヴァチェフスキーもある程度力で押したような感があるが、それでも力んではいない。全体的には室内楽的な響きで、ソフトに演奏されている。また、前半の2楽章はスクロヴァチェフスキーらしい全く丁寧な演奏である。金管楽器の音も特に控えめに聞こえる。後期のブルックナーのスタイルとは違うということを伝えたかったのかもしれない。鋭角的で、硬質な印象を受けた後期の曲とは対照的に、ここでは表情は柔らかく、軽さと明るさを追求しているようだ。それでいながら、徹底的に鍛え上げたオケのアンサンブルがすばらしいので、強奏時には壮麗な音楽になってくる。このようなアプローチをするとは、実は私は考えていなかった。第8番などで見せたキリキリとしたメカニカルなスタイルを取るのではないかと考えていたからだ。その意味で予想は裏切られたのである。

 アダージョは室内楽的という言葉を超越するほど美しい。こんなブルックナーはザラには聴けない。スクロヴァチェフスキーはブルックナーのアダージョでいつもすばらしい演奏を聴かせるが、外面的な印象とは裏腹に、深く叙情性を兼ね備えた指揮者なのかもしれない。

 私はスクロヴァチェフスキーの演奏を聴いて、第3番がこんな音楽であったことを改めて思い知らされた気がする。おそらく他のリスナーも「あれ?」と思うところが少なくないはずだ。美しい旋律をザールブリュッケン放送響がこの上ない繊細な音色に乗せて聴かせてくれるのである。すばらしい。これなら、ブルックナーが苦手な人も安心して楽しめるだろう。スクロヴァチェフスキーの親爺さん、本当に聴かせ上手だ。私はすっかり満足してしまった。とびきり上等の演奏、録音で輸入盤なら780円。最高の買い物だと思う。

 しかし、これほどの演奏でも満足できない人はきっといると思う。もっとブルックナーらしい壮麗な音響の世界に浸りたいという欲望はブルックナーファンなら誰しもが持っているだろう。そこでもうひとつのCDを取り上げたい。新譜ではないので恐縮だが、ザンデルリンクの録音である。

 

 

CDジャケット

ブルックナー
交響曲第3番ニ短調
ザンデルリンク指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管
録音:1963年 
BERLIN CLASSICS(輸入盤 BC 2151-2)

 このCDについては既にほうぼうで取り上げられているし、ご存知の方も多いと思う。本当はライプツィヒ・ゲヴァントハウス管の特集をする時にでも取り上げようかとも思っていたのだが、スクロヴァチェフスキーの演奏のアンチ・テーゼとして挙げておきたい。

 ザンデルリンクの演奏は鋭角的では決してないが、ブルックナー特有の爆発的なパワー、壮麗な音響に満たされているうえ、音楽進行にも全くダレがなく、聴き手を終始圧倒しつつ全曲64分をあっという間に聴かせる名演奏である。伝統的なドイツのブルックナーという感じである。オケの響きは重厚で輝かしく、技術的にも惚れ惚れするほどうまい。さらに、1963年録音であるにもかかわらず、音質面でも優れ、みずみずしい音色を満喫できるのである。これほど堂々とした第3番の演奏はなかなかない。あくまでも好みの問題であるが、スクロヴァチェフスキーの名演で飽き足らない人でもこれなら、唸らざるを得ないだろう(ただし輸入盤で1,700円くらい。スクロヴァチェフスキー盤の2倍!)。

 さて、こうした優れた演奏があることを、朝比奈氏はご存知だったのだろうか。ちょっと疑問になってくる。難曲をこうしてクリアしてこそ、巨匠と呼ばれるのではなかろうか。

 

1999年4月14日、An die MusikクラシックCD試聴記