圧倒的なパワー ボレットのカーネギーホールライブ

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CDジャケット

「20世紀の偉大なるピアニストたち」

ホルヘ・ボレット1から「カーネギーホールライブ」ほか
(収録曲は最後尾に掲載したのでご参照下さい)
ピアノ:ボレット
録音:1973,74年 PHILIPS

 昨年発売が開始された「20世紀の偉大なるピアニストたち」シリーズのひとつ。この壮大なプロジェクトでは合計100点にのぼるピアニストのCDを発売することになるらしい。といっても、熱心なピアノファンの方々にとっては、既に所有する曲が寄せ集めてあるだけで、余り面白くないかもしれない。私も曲目を見て半分以上所有しているものが入っていたりすると急に購買意欲がなくなる。しかし、まだ持っていないピアニストや曲目が入ったCDだと、値段も安いこともあってついつい買ってしまう。国内盤では3,000円ほどだが、輸入盤では2枚組で1,800円ほど。BGMに最適だと思って何枚か購入した。

 ところが、このボレットのCDだけはとてもBGMにならない。他のCDはそれこそものを書いたり、読んだりしながら聴けるのだが、特にカーネギーホールリサイタルの部分はとてもではないが激しすぎてBGMに向かないのである。

 第1曲目、バッハのシャコンヌから強烈。いくらブゾーニによるピアノ編曲版だからといっても、他のピアニストはこれほど猛烈に弾かないだろう。まるで原曲がピアノ曲であったかのように錯覚する。ボレットはリスト弾きとして知られた人だから、これくらいの曲は朝飯前だったかもしれないが、それにしても強力な打鍵だ。ピアノをガンガン弾きまくるというのはまさにこのことで、そのパワーに最初から圧倒されてしまうのである。

 第2曲目はショパンの「24の前奏曲」。軟弱なショパンとは一線を画したマッチョなピアノである。例えばハ短調の前奏曲ではそれこそ叩きつけるような打鍵だ。そのすさまじさにはただただ驚く。しかもボレットは機械のように弾いているわけではなく、深い情感も十分表現している。大変な熱演である。聴衆の熱狂ぶりもすごい。最終曲が終わるか終わらないかのうちに盛大な拍手が始まるのである。

 リサイタルはここまででも十分すごいのに、英文解説によると、以上は単なるウォーミング・アップと書いてある。実際そうなのだ。J.シュトラウス2世の「人生は一度だけ」、「蛾」を挟んでコンサート・アラベスク「美しく青きドナウ」とワーグナー(リスト編)の「タンホイザー」序曲が演奏されるのだが、もう信じられないくらいのパワーだ。「美しく青きドナウ」などやっとBGMらしくなったと思ったのも束の間、やはり猛烈なパワーに圧倒される。最もすごいのは「タンホイザー」だ。ピアノ演奏の極限に迫っていると言っても過言ではない。いくらリストの編曲だからとはいえ、原曲がオーケストラ曲の編曲版を聴くと、オーケストラの色彩感をつい思い出してしまい、ピアノで聴いていると退屈することが多い。しかし、ボレットのピアノはもうオーケストラ並みの音色と迫力で聴き手を圧倒してしまう。いやはやこれにはただ呆然とするばかり。終演後には絶叫のようなブラーボーが聞こえるのも当然だ。

 ボレットさん、我が家にある「カンパネラ」や「愛の夢第3番」が入ったCD(DECCA 410 257-2)を昔聴いていた時にはこんなすごい人だとはつゆほども思わなかった。このライブが別格なのかもしれない。打鍵がすごいだけでなく、音楽的にも充実していると思う。ただ、こういうピアノが嫌いな人も多いだろう。現に女房さんは「好きでない」と明言している。趣味の問題だから仕方ないか。

 ところで、このCDのケースについて。なかなか洒落たケースで何となく所有する喜びを感じさせてくれるのだが、目立っていけない。うちの女房さんはたちまち発見してしまった。こういう場合は最悪である。いつもなら、「あら、また買ってきたの? いい加減にしてよ!」と言われても「何を言っているんだ。これは2年も前に買ったCDじゃないか!」と言ってごまかせるのに、これでは全くだめだ。何とかならないものだろうか。

収録曲

  • バッハ(ブゾーニ編):シャコンヌ
  • ショパン:24の前奏曲
  • J.シュトラウス2世(タウジヒ編):人生は一度だけ、蛾
  • J.シュトラウス2世(シュルツ=エヴラー編):コンサート・アラベスク「美しく青きドナウ」
  • ワーグナー(リスト編)「タンホイザー」序曲
  • モシュコフスキ:女道化師
  • ルビンシテイン:スタッカート

以上、「カーネギーホールライブ」で、録音は1974年

これ以下は1973年、RCAのスタジオ録音

  • リムスキー・コルサコフ(ラフマニノフ編):くまんばちの飛行
  • クライスラー(ラフマニノフ編):愛の悲しみ、愛の喜び
  • メンデルスゾーン(ラフマニノフ編)スケルツォ<劇音楽「真夏の夜の夢」から>
  • バッハ:プレリュード<無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番から>
  • ムソルグスキー(ラフマニノフ編):ゴパック
  • ラフマニノフ:V.R.のポルカ
  • チャイコフスキー:子守歌
  • ビゼー:メヌエット<アルルの女から>
  • ドニゼッティ(リスト編):ルチアの想い出
 

1999年2月15日、An die MusikクラシックCD試聴記