ブラームスの室内楽を楽しむ
ブラームス
ピアノ五重奏曲ヘ短調 作品34
アマデウス弦楽四重奏団
ピアノ:クリフォード・カーゾン
録音:1974年 BBC LEGENDSBBC LEGENDSシリーズの一枚。1974年11月17日、ロイヤル・フェスティヴァル・ホールでのライブ。このシリーズは演奏内容も録音も良く、最近の新譜の中でも出色だ。続編も出るというから本当に待ち遠しい。
さて、ブラームスの室内楽、しかも渋いピアノ五重奏曲である。有名曲ではあるが、このページの読者にももしかしたら「ちょっと苦手」という人がいるかもしれない。何といっても暗い。ブラームスはこの曲にはかなりの時間をかけ、練りに練った音楽にしたのだが、どうしようもなく暗い。明るさのかけらもない。ブラームスの内面がどういうものだったか、この曲を聴くだけでもおおよそ分かる。
しかし、そんな曲でもこの演奏はいい。とてもいい。私は第1楽章からすっかりのめり込み、暗い暗いブラームスの情念に取り憑かれてしまった。「そんな暗い曲は聴きたくない」という人はともかく、この曲の優れた演奏を探している人がいたら是非教えてあげたくなる。
第1楽章:ブラームスはこの楽章に妙に力を入れすぎたのではないかとかねがね私は思っている。おかげで演奏家は大変苦労しているのではなかろうか。弦楽四重奏団が、表現力豊かで力感が強いピアノに張り合って、ただ負けじと張り切ってしまうと、うるさいだけになってしまうし、かといって気の抜けた演奏をすると15分もある曲だから持たせられない。このアマデウス弦楽四重奏団とカーゾンの組み合わせの良さは両者のバランスが実にすばらしいことだ。どの声部も変に出しゃばることもなく、緊張感を維持したまま暗い歌を歌う。両者が目指した音楽像が完全に一致していたのだろう。音色は磨き抜かれているが、暗い。その情念の盛り上がり方もとても激しい。第2楽章はそれこそ枯淡の味わいだ。
特筆すべきは第3楽章からだ。このライブはここからがすごい。まさか前もってこんな演奏をしようと取り決めてあったとは思えないが、アマデウス四重奏団もカーゾンもいきなり激しく燃え上がる。ライブならではの手に汗握る大熱演が第4楽章が終わるまで展開される。そこいら辺にある下手な協奏曲などよりも遥かに密度が高い交感がある。両者のやりとりのすさまじさ。よほどしっくりいった間柄だったのだろう。それにしてもこのとてつもなく重厚な響きは何なのだろう。オケにも匹敵しそうな分厚さだ。
第4楽章:テンションが高まったまま第4楽章に突入、一気に聴かせる。緩急の取り方、強弱の妙、間、すべてが見事に決まっている。これはいわゆる壮絶ライブだ。あまりのテンションの高さに圧倒される。もちろん終演後にブラヴォーと大きな拍手がある(ブラヴォーはタイミングの良さと声の質からいってプロっぽいが)。
なお、ボーナスとしてシューベルトの「ます」が収録されている。が、CDとしては圧倒的にブラームスの印象が強いので、申し訳ないがコメントは割愛する。
1999年2月22日、An die MusikクラシックCD試聴記