コンドラシン指揮ウィーンフィルでドヴォルザークの「新世界」を聴く

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 CDジャケット

ドヴォルザーク
交響曲第9番ホ短調作品95(B178)「新世界より」
キリル・コンドラシン指揮ウィーンフィル
録音:1979年
アメリカ組曲イ長調作品98b
アンタル・ドラティ指揮ロイヤルフィル
録音:1982年
プラハ・ワルツ(B100)
アンタル・ドラティ指揮デトロイト響
録音:1980年 DECCA

 誰でも気になる指揮者がいると思う。私にとってコンドラシンはその一人である。彼は1981年にアムステルダムで心臓発作で急死した。翌年にはバイエルン放送響の首席指揮者に決まっていたし、西側で順風満帆の指揮者生活を送っていた矢先であった。79年に旧ソ連からオランダに亡命して間もない頃で、今後が期待されていた時期だけに残念至極である。もし彼が現代まで生きていたら、20世紀最後の巨匠としてヨーロッパに君臨していたのではないかと信じている。なお、コンドラシンの死については私はKGBか何かが絡んだ暗殺ではないかと昔から疑っている。

 この演奏について。これが大変面白いのだ。骨太の演奏で、力強い。その骨太さがぶっきらぼうにさえ感じる。もちろん、ずっとぶっきらぼうなわけではなく、平均的には非常に流麗だ。しかし、ふと覗かせる奇妙なまでのぶっきらぼうさ、極論すると野暮ったさが耳について離れない。その意味では演奏効果満点だろう。第1楽章にそうした傾向が顕著で、思わずどっきりする。不思議なのはこんな妙な演奏なのにあざとさがないことだ。コンドラシンは自然体でこんな演奏ができたらしい。ウィーンフィルがどんな気持ちでこんな演奏をしたのか分からないが、完全にコンドラシン節になっているのだから痛快である。きっとライブ録音に違いないと思って、調べてみるとごく普通のスタジオ録音だった。コンドラシンのおじさん、一体どういう人だったのだろう。こんな楽しい演奏をしてくれるなんて、きっととても面白いキャラクターだったに違いない。

 実はこのCDの話はここで終わらない。フィル・アップ曲がすばらしいのでとても無視できないのだ。

 余白に収録されている「アメリカ組曲」、「プラハ・ワルツ」の2曲は恥ずかしながら私はこのCDを手にするまで知らなかった。どうせ余白の曲だからと思って聴いたのだが、とんでもない大間違い。

 「アメリカ組曲」。解説によると、ドヴォルザークは「新世界から」初演後間もなくピアノ独奏用の組曲を作曲、ついで管弦楽用に自ら編曲したらしい。組曲は5曲からなる。タイトルから想像できるとおり、ドヴォルザークらしい明るく伸びやかな、そしてほのぼのとした曲だ。こういう曲を聴くと、メロディー・メーカーとしてのドヴォルザークの面目躍如となる。いつも深刻な曲ばかり聴いている読者がいたら、ぜひお勧めしたい。

 「プラハ・ワルツ」は実際に踊るために作られたらしい。これも非常に心地よい曲だ。原曲は管弦楽曲。ピアノ編曲版があるらしいが、面白いことにピアノ版が作曲の翌年1880年に出版されたのに、原曲の管弦楽版の出版は1961年だという。何と私が生まれた年ではないか。

 ちなみに、「アメリカ組曲」「プラハ・ワルツ」は演奏したオケこそ違え、ドラティが指揮しているだけに聴き応え抜群。オケもよく鳴っている。なぜドラティがこの珍しい曲を録音したのか分からないが、よくこんな曲を残してくれたものだ。ドラティはスター街道とは無縁であったが、オケを鍛え、統率する力が卓抜していたことはこの2曲だけでも明らかである。このCDを作ったプロデューサーはちょうど良いフィル・アップになると思ってカップリングしたのかもしれないが、結果的にはコンドラシンの「新世界」を食ってしまった。CDジャケット(表)にはドラティの名前もロイヤルフィルの名前も、デトロイト響の名前も印刷されてないが、これではいくら何でも彼らに失礼ではないだろうか。

 

1999年1月6日、An die MusikクラシックCD試聴記