スクロヴァチェフスキーの「未完成」

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CDジャケット

シューベルト
交響曲第5番変ロ長調 D.485
交響曲第8番ロ短調 D.759「未完成」
劇音楽「ロザムンデ」から序曲、間奏曲第2番、バレエ音楽第2番
スクロヴァチェフスキー指揮ミネアポリス響
録音:1961、62年 MERCURY

 ここ数年、非常にユニークなブルックナー演奏で我々を楽しませてくれるスクロヴァチェフスキーの古い録音である。

 実はこんな古い録音だとは思わずにスクロヴァチェフスキーの名前だけを見て買ってしまったのだが、期待に違わぬ面白い演奏だったので安心した。

 そうしているうちにレコ芸を見ると、このCDが月評に出ていた。評者は結構スクロヴァチェフスキーに好意的なのか、随分褒めていた。文章だけ読むと、絶賛に近いような気がする。が、推薦マークは付いていない。なぜだろうか。ここにレコ芸の厄介なところがあるのだが、正面切って駄目なところを書けなかったのではないだろうか。

 その「駄目なところ」は実はこの録音を聴けば、すぐ分かる。しかも、多くの聴き手にとっては「駄目なところ」ではなく、「すごく面白いところ」に変わるのではないかと思う。特に「未完成」にこの指揮者の特徴がよく現れているので、ご紹介したい。

 この「未完成」、悪く言えば即物的で、ぶっきらぼうだ。耽美的な表現はどこにも見あたらない。オケの響きは極めて鋭角的で、ポキポキ、ブツブツしている。とろけるような美しい旋律も、感傷を全く排除して演奏されているから、実に素っ気ない。録音のせいもあるかもしれないが、硬質な響きに満たされている。弦楽器は入りを揃えて強力に弾きまくり、金管楽器は鋭く炸裂する。甘く切ない「未完成」を期待して聴くと、嫌気がさすだろう。実はこの演奏スタイル、最近スクロヴァチェフスキーが発表している一連のブルックナーとそっくりだ。レコ芸の評者はおそらくこうした点が気に入らなかったのではなかろうか。

 ところが、そうではありながら、この「未完成」は面白さの限りだ。上記の特徴はまさに指揮者が意図したところであるから、先入観さえなくせば、病みつきになるほど楽しい。ふたつのスピーカーから流れてくるステレオ効果満点のスクロヴァチェフスキーの音楽には釘付けになる。どんな風に料理するかと思い、ついつい耳をそばだてる。私は別にこうした演奏が嫌いではない。「未完成」は交響曲であって、ムード音楽ではない。スクロヴァチェフスキーのアプローチは従来の「未完成」のイメージからは大きく離れてしまったが、大胆にも30歳台でこんな演奏をしてしまうのだから、当時からただ者ではなかったわけだ。

 もしかしたら、スクロヴァチェフスキーの指示は音楽研究家にとっては許し難いことかもしれない。あざとい表現がないわけではないし、問題点を指摘すればいろいろ出てくるだろう。だが、私は学者ではない。音楽評論家でもない。音楽は楽しむために聴いている。そういう立場からすると、このCDはわずか1,400円ほど(輸入盤)で、思い切り聴き手を楽しませてくれる。少なくとも、このCDは聴き手を退屈させないだろう。

 なお、交響曲第5番も「未完成」ほどではないにせよ、同傾向の演奏。一般的なイメージに最も近いのは「ロザムンデ」だと思う。

 

1999年1月28日、An die MusikクラシックCD試聴記