イッセルシュテットのブルックナー
ブルックナー
交響曲第4番変ホ長調
交響曲第7番ホ長調
イッセルシュテット指揮北ドイツ放送響
録音:1966年(4番)、68年(7番)
TAHRA(輸入盤 TAH 9901/9902)「うをををを!」....などという書き出しは文章作法として厳禁されている。が、このCDを聴いて狂喜乱舞した私は、この興奮をホームページでどう表現してよいか分からない。特に7番には痺れる。
正直に白状してしまうと、このCDを買ったのは「斉諧生音盤志」で斉諧生さんが褒めていたからである。私が選んできた訳ではない。だから、このページで取り上げるのは斉諧生さんの二番煎じになる。それを十分承知した上でこのCDを取り上げるのは、より多くの人にこの演奏を聴いていただきたいと思うからだ。今回TAHRAから出たイッセルシュテットのCDは2組あり、マーラーもの(1番と4番。TAH 9903/9904)とブルックナーものである。なぜかTAHRAはセットものが好きで、1枚もので出せるはずのCDを二つ合わせて2枚にしている。そのため値段が張ってしまい、このブルックナーも3,600円ほどした。しかし、これほどの演奏なら元はすっかり取れるし、録音も驚く程良いので長らく愛聴盤として手元に置けるはずだ。
さて、演奏の話に戻ろう。
優れた演奏というものは、最初の1分くらいを聴けば結構分かる。私はこのCDの第7番の出だしを聴いて「これはただごとではない」と直感してしまった。弦楽器がさざ波のように原始霧を刻む場所だけを聴いて、その情感の豊かさに驚かされたのである。予想は当たった。朗々と歌われる第1主題を目の当たりにするに及んで、思わず耳をそばだててしまう。何という自然さであろうか。ブルックナーを演奏するアプローチは様々。雄大に、壮大に、野暮ったく、威圧的に、など。イッセルシュテットのアプローチはそのどれにも該当していない。音楽が人間の呼吸をしているのを感じさせる演奏で、その自然さがすばらしい。もしかしたら、壮大なブルックナーを好む人には物足りない演奏家もしれないが、私にとっては理想的なブルックナーである。虚勢を張った所などないし、どこかで山を築いて、そこで勝負しようなどといった姿勢も感じられない。名曲をあるがままに息づかせた希有の演奏である。私はイッセルシュテットがこのような優れたブルックナーを聴かせるとは夢にも思っていなかった。これほど自然で、おおらかに音楽を捉え、豊かな情感を湛えた演奏は類例がない。
7番を聴いてこれほど感心したのはマタチッチ以来のことだ。マタチッチ&チェコフィルの演奏は1967年。イッセルシュテット盤は68年の演奏だから、この時期、意外にも優れたブルックナー演奏があちこちで聴かれたのかもしれない。
一体どこからこんな優れた音源が出てきたのだろうか。CDジャケットにはライブとは書いてはいない。もしかしたら放送用音源だろうか。みずみずしくかつバランスのよい最高のステレオ録音だし、音質的にも申し分がない。TAHRAのリマスタリング技術もよかったのであろう。
最後に。ホームページ作者がこんなことを書くのはどうかとは思うが、恥じずに書いてしまおう。「斉諧生さん、ありがとう」。
1999年7月12日、An die MusikクラシックCD試聴記