ムラヴィンスキー指揮レニングラードフィルで聴くブルックナー交響曲第9番

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CDジャケット

ブルックナー
交響曲第9番ニ短調
ムラヴィンスキー指揮レニングラードフィル
録音:不明
デアゴスティーニ・ジャパン The Classic Collection 121

 このCDはCDショップで買ったわけではない。地元の小さな書店で買った。どこにでもあるような小さな書店である。値段は910円。別にこのCDを聴こうと思って買ったわけではない。ものはCDというより本だし、たまたま目に入ったからだった。ブルックナーの解説をどんなふうに書いているのか知りたかったし、安かったので「まあいいだろう」と思って買った。ムラヴィンスキー指揮レニングラードフィルの演奏、しかもライブだとは家に帰ってよく見てみるまで気がつかなかった。

 最近はNAXOSや、ARTE NOVAのCDがすっかり出回ってきたのでこれくらいの値段で驚く人はいなくなったが、910円はやはり安い。デアゴスティーニ・ジャパン社によるCDマガジン The Classic Collection はこのブルックナーで121号を数えている。これだけ続いているところを見ると、私のような購買者が結構いるのかもしれない。

 このシリーズをご存知ない方にこのマガジンの作りを紹介すると、まずケースは書店で目立つように大きな表紙がついていて、その中に解説書とCDが入っている。解説書はA4版くらいの大きさで、もちろんカラーの挿し絵などがふんだんにあるし、読み物としても面白い。あまり小難しい表現を使った文章ではなく、これからクラシックを聴いてみようという人にはちょうど分かりやすい解説だと思う。もっとも、解説というより冊子(マガジン)である(隔週で発売されている)。

 分かりやすい、ということは、付属CDの演奏にも現れていると思う。わかりやすさという点では抜群の演奏だと思う。ムラヴィンスキーの演奏では、音楽の山がすぐ分かる。また決して飽きさせずに聴かせてくれる。別に快速運転をしているわけではないのだが。

 ムラヴィンスキーはブルックナー指揮者として知られているわけではない。それどころか、ムラヴィンスキーのブルックナーは異端であろう。私はブルックナーファンであるのでいろんなブルックナーを聴いているが、その中でもこのムラヴィンスキーの演奏は特に変わっていると思う。金管楽器、特にトランペットの響かせ方が独特で、よくいえば「ロシア臭が感じられる異国情緒満点の激しいラッパ」となるが、悪くいえばそれこそ「不潔な音のラッパ」である。音には切れがあるのだが、明るさがなく、何となくべっとりくっついてくる感じもする。こんな鳴らし方をするのはどう考えても独裁者ムラヴィンスキーの指示であって、その統制がいかに徹底していたかがよく分かる。面白いのは別にトランペットに限ったことではない。金管セクション全体が軍楽隊のような猪突猛進型の演奏をしており、聴いている方はその音響にうなされる。また、この指揮者独特の緩急、および音量のダイナミズムも面白く、聴き所とも言える。

 ライブ録音であるため、超機能集団であったレニングラードフィルも妙な音を出しているところもある。が、うるさいことをいわなければ非常に楽しめる演奏である。しかし余りにもやりすぎ(面白すぎる)ので多分、熱心なブルックナーファンからは総すかんを食うのではないか。ヴァントのように丁寧に丁寧に1小節ずつ音を積み上げていくような音楽作りとは全く違うからである。

 ただ、私はリスナーであって、音楽学者ではない。音楽は聴いて楽しめればよい。仮にこの演奏がゲテモノの部類にはいるとしても私は面白いと思うし、こうした演奏ができる曲なのだと改めてブルックナーを見直してもいる。おそらく、ブルックナーの9番をこの演奏で聴いてしまうと、他の演奏を受け付けなくなると思うが、それほどのインパクトのある演奏を詳しく分かりやすい解説(冊子)付きで910円で聴けるというのはありがたいことであると思う。

 録音年月日が記載されていないが、音質は一応ステレオだし、悪くはない(ヘッドフォンで聴くと少しこもりがちになるが)。私は大いに楽しんだ。地元の書店でこうした面白いCDが安価で買えるとなると、国内盤の新譜はますます価格体系の変革を迫られるだろう。

 

1999年6月14日、An die MusikクラシックCD試聴記