バルビローリのシベリウス

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CDジャケット

シベリウス
ヴァイオリン協奏曲ニ短調作品47
ヴァイオリン:ジネット・ヌヴー
ジュスキント指揮フィルハーモニア管
録音:1946年
交響曲第2番ニ長調作品43
バルビローリ指揮ニューヨークフィル
録音:1940年
DUTTON(輸入盤 CDEA 5016)

 SPからの復刻盤。980円CD。

 バルビローリのシベリウスはよい。とてもよい。EMIにあるシベリウスの交響曲は全曲揃っているのに、何故かセットの全集としては発売されていない。ばらで買い始めると、必ず全部買ってしまうだろうし、有名な演奏であるから、全集にしたって十分売れると思うのだが。何かEMIには深い考えがあるのだろうか。EMIの全集はハレ管を指揮したステレオ録音で、暖かみのある演奏が聴き手の胸を打つ。ベルグルント指揮ヨーロッパ室内管弦楽団の全集が登場した後でもなお非常に優れた演奏であり、飽きずに何度も聴ける。何度聴き直しても新しい発見があるし、また聴きたいと思う。それだけ深みのある演奏なのだろう。

 そうしたバルビローリが残したシベリウス録音があれば、必ず聴きたくなる。しかも、収録曲は交響曲第2番。1940年と、録音は古いが、興味津々になる。聴いてみると、実際大変面白い。というより驚かされる。一緒に収録されているヌヴーのヴァイオリン協奏曲の演奏は予想の範囲内であったが、交響曲はEMI盤とはまるで別人の演奏である。

 何度も書くが、バルビローリのシベリウスは暖かい。北欧の音楽というと寒々とした印象があるのだが、バルビローリで聴くと、第7交響曲や「タピオラ」でも人間の体温が感じられる。それが他の演奏とは大きく違った魅力である。テンポは中庸。急ぐこともなく、間延びすることもない。きっとこれもそうだと思って聴き始めると、とんでもない。この演奏はかなり速いテンポで強引にオケをドライブしている。オケがニューヨークフィルだったからたまたまそうなったというわけではないだろう。この録音はスタジオ録音だから、おそらく当時ならば、時間をかけてじっくりリハーサルを行った上で録音されたはずである。したがって、この速弾きは当時のバルビローリの芸風をそっくり表していると思われる。

 シベリウスの2番は、もともとドラマチックにできているが、バルビローリはさらに激しさを加え、爆発的な演奏を展開。これがスタジオ録音だとはにわかには信じられない。第1楽章から気合い十分、「ドラマチックにいったるで」という感じだ。バルビローリはテンポが速いだけではなく、「泣き」を入れている。第4楽章など猛烈なコブシである。これでは西洋版の演歌ではないか。私は「いやあ、バルビさん、やってるねえ」と思いながら聴いていた。すると、あまりの熱さに感動してしまう。一体全体、バルビローリはライブでどんなことをしていたのだろう。おそらく若かりし頃のバーンスタイン顔負けの猛烈ライブをやっていたのではあるまいか。

 速いテンポではあるが、表情が豊かであるために、空虚な感じが全くしない。ここがやはり他の演奏と違う。実は「シベリウスの2番は曲が良くできているから誰が演奏しても楽しい」などということはない。意外なことだが、分かりやすい名曲であるが故に音符をなぞっただけの空虚な演奏が多いと思う。このバルビローリ盤は晩年の落ち着いた演奏スタイルとは異なるものの、音楽が大きな息をしている。バルビローリの激しい気迫と愛情の賜であろう。

 なお、時代が時代だから、録音はモノラルである。が、もとの録音が良かったからか、あるいはDUTTONの復刻技術が優れていたからか、オケの音は極めて鮮明に捉えられている。ちょっとした木管楽器の表情も明確に聴き取れる。しかも美しい。さすがニューヨークフィルだけあって、うまい。同じスタジオ録音であるが、これと比べると、ハレ管との演奏はステレオ録音であるが、腕の違いが分かってしまう。

 ヌヴーのヴァイオリンについてはまたの機会にする。ファンの方々、お許しを。

 

1999年6月21日、An die MusikクラシックCD試聴記