ベイヌム指揮コンセルトヘボウ管
J.C.バッハ
6つのシンフォニア作品18から
- 第2番変ロ長調
- 第4番ニ長調
録音:1958年(ステレオ)
モーツァルト
フルートとハープのための協奏曲ハ長調K.299フルート:Hubert Barwahser
ハープ:Phia Berghout録音:1956年(モノラル)
交響曲第29番イ長調K..201
録音:1957年(モノラル)
ベイヌム指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管
PHILIPS(輸入盤 462 525-2)随分前に発売されていたPHILIPSの「Dutch Masters」シリーズの一つ。「Dutch Masters」は全部で37タイトル発売された。このCDはその29番目に当たる。おそらくすぐ廃盤になるだろうと思って、ベイヌム関係のものはすぐ入手した。ドレスデンのオケと同様、コンセルトヘボウのCD、特にベイヌムが在任した時代の録音は見逃せない。
買ったCDは、どれも良い演奏であった。モノラル録音も多かったが、エンジニアの技術が優れていたのだろう、鮮明で聴きやすい音質で私は大変満足した。
このCD、収録曲が地味目だが、粋な組み合わせである。最初のバッハはあの大バッハではなく、大バッハが50歳でもうけた末子クリスチャンである。「6つのシンフォニア作品18」は1772年から77年に作曲。続くモーツァルトの「フルートとハープの協奏曲」は1778年、交響曲第29番は1774年に作曲されている。おおよそ同時代の人気作曲家の名曲を集めているわけだ。
さて、演奏について。
ベイヌムはシンフォニア6曲のうち2曲しか残してくれなかったようだが、これだけ清澄で典雅な演奏を聴かされると、どうしても全曲を聴きたくなる。どこかから現れないものか。実に惜しい。もともと、クリスチャン・バッハの音楽が軽みを備え、聴き手を楽しませるように作られているわけだから、聴いて面白くないわけがない。それを名器コンセルトヘボウ管のプレーヤー達が演奏する。活きのいい演奏を心から楽しめる。やはり50年代のコンセルトヘボウの音はよい。
次のモーツァルトの協奏曲はさらに良い。至福のモーツァルトである。ソリストは二人ともオランダの奏者らしい。残念ながら、私は二人とも名前を知らなかった。が、それこそうっとりするような美しい音色を聴かせてくれる。マイクはソリストに焦点を合わせ、かなりオンになっているから、モノラル録音であるにもかかわらず、ソロの音は極めてクリアに聞こえる。今ではこうした録音は不自然とのそしりを受けそうだが、私は評価している。バックのオケもぼやけてはいない。録音技術はほとほと進歩していないのである。
このCDは購入後何度も聴き返した。普通ある程度聴くと、CD棚に送られ、しばらく取り出されることがなくなる。しかし、このCDは違う。ゆっくりと休みたいとき、疲れたときなど「何かいい音楽はないか」と思って探すとこのCDに当たる。これからもしばらく聴き続けそうだ。
ところで、最後に収録されている交響曲第29番。困ったことに、さほど良くはない。これは少し鋭角的な演奏で、私はあまり好きではない。優雅な曲ではあるが、ベイヌムは必ずしもそのように演奏していないのである。別の一面を見せたかったのであろうか。
なお、最後に。このCDではクリスチャン・バッハのシンフォニアとモーツァルトの2曲が組み合わせてある。が、LP発売時はそうではなかったらしい。シンフォニアは全部で20分もかからない演奏だが、これだけで一つのLPだったようだ。モーツァルトの2曲も録音時期が違うし、それぞれがもっと長い曲だから、別々のLPだったに違いない。今でこそCDの収録時間は70分以上が当たり前になったから、こんな贅沢な組み合わせが可能になっている。しかし、本当に我々はその「贅沢さ」を理解し、味わっているだろうか。私とて、最初から最後までこのCDを注意深く聴くことはできない。人間の集中力は長くて30分くらいではないだろうか。だから、音楽をちゃんと味わいたいときはこのCDのうち、最大でも2曲分までしか聴けない。そう思うと、わずか20分のシンフォニアの録音をA面とB面に分けて、じっくりと慈しむようにして楽しんであろう昔の人の方がよほど音楽を真剣に聴いていたと思う。流し聴きがすっかり多くなってきた私はこうしたCDを見ると、時々自責の念にとらわれるのである。
1999年6月23日、An die MusikクラシックCD試聴記