ケンペの指揮を聴く
ブラームス
交響曲第4番ホ短調 作品98
ケンペ指揮BBC響
録音:1976年 BBC LEGENDS1976年2月18日のBBC響とのライブ。ケンペは75年にBBC響の常任になり、翌76年5月12日には65歳で他界してしまう。したがってこの演奏はケンペ最晩年の遺産ということになる。
ケンペは地味な指揮者だったが、人気は今もって高い。スター街道に乗って驀進したわけでもないのに死後もずっと忘れられずに残っているのは、やはりこの人にしかできない指揮があったからだと思う。このブラームスもケンペの入念なリハーサルと指揮を偲ばせるに十分な演奏である。
この録音を聴いて驚くのは、フレーズのすべてに指揮者の指示が徹底していることだ。フレージング、音量などすべての部分に細かく配慮が行き届いている。それが必ずしも楽譜に忠実でなかったりするから余計はっきり分かってしまう。突出する楽器がなく、オケの音色はブレンドされている。だから、最初聴いた時にはやや地味な印象を受けるが、聴き込めば聴き込むほどその綿密さに驚かされる。
第1楽章:すすり泣くような弦楽器の音色。このような手法は今時は珍しい。やややりすぎのような気がしないでもないが、演奏自体に細やかな神経が行き届いているので納得して聴いてしまう。
ブラームスの4番にはいろいろなアプローチがあるが、これは他のどんな演奏とも似ていない。男性的というより女性的、豪放ではなく繊細。すすり泣くような弦楽器の音にもかかわらず、泣きを売りにしているわけでもない。本来、こういう演奏を「いぶし銀」というのではないだろうか。もちろんそう感じるのは、録音の影響もあるかもしれない。BBCの録音は大変ソフトだが、実際会場では激しい鳴りっぷりだったかもしれない。
第2楽章:楽章全体がよくまとまっている。情に溺れない、淡々とした演奏ながら、全体に詩的な情緒を漂わせている。
第3楽章:爆発的な演奏を求める人にはおそらく物足りない。しかし、すべての音が丹念に積み重なっていく様が実にすばらしい。
第4楽章:パッサカリア主題の一音毎に強弱をはっきりつけるなど、いきなり驚く。しかし、全般的には地味な演奏だ。感情移入も激しいフォルテもない。遅めのテンポがケンペの指揮の全貌を見せる。丁寧で繊細。渋い。よくぞここまで渋いブラームスを演奏できたと感心せずにはいられない。
なお、余白にBBC響とのシューベルトの交響曲第5番が収録されている。
1999年3月1日、An die MusikクラシックCD試聴記