初めて聴くカリンニコフ
ワシーリイ・カリンニコフ
交響曲第1番ト短調
交響曲第2番イ長調
クチャール指揮ウクライナ国立響
録音:1994年 NAXOSカリンニコフ。ロシアの作曲家で1866年に生まれ、1901年に死んでいる。享年34歳。早世した作曲家の代表でもある。交響曲はこのCDに収録されている2曲がある。
と、偉そうに知ったかぶりをして書いたが、正直に告白すると、私はこのCDを聴くまでカリンニコフという作曲家の曲を知らなかった。名前だけはよく耳にしていたので、いつかは聴いてみたいと思っていた。しかし、CDショップに行くと、相も変わらずベートーヴェンやブラームスやブルックナーなどありきたりの作曲家達のCDを買ってきてしまう。家に帰ってきて初めて「また忘れた!」と地団駄を踏む。今回は忘れないように手帳にメモまでしてカリンニコフのCDを買い求めたのであった。値段は780円。これなら失敗しても後悔はしない。
まずは交響曲第1番。チャイコフスキーとリムスキー・コルサコフとボロディンを足して3で割ったような感じの作曲家とでも言おうか。どこかで聴いたことがあると錯覚させるような懐かしさがこみあげてくるメロディーがいっぱい。特に第1楽章の主旋律はまるで映画音楽でも聴いているような感じだ。ロシアの草原を逍遙する映画主人公「ワシーリイ」とかいった雰囲気だ(いや、もしかしたら宮崎駿さんのアニメ、例えば「風の谷のナウシカ」とか「もののけ姫」などでも使えそうな気もする)。その旋律は第1楽章の間何度も繰り返されるので嫌でも覚えてしまう。同じ主題が第4楽章の冒頭でまた出てくるのだが、もちろん、それとすぐ分かる。そんなわけだから、全曲の構成も、旋律もわかりやすさという点で群を抜いている。しかもロシア風の旋律が美しいといっても、チャイコフスキーのように深刻癖がなく、金管楽器をフルに鳴らして激しい感情を爆発させることもない。第4楽章はなかなかカッコよく終わって、いかにもロシアの交響曲と思わせるのだが、それでもうるさくはならない。上品な音楽である。メランコリックな音楽を聴かせるようでいて、作曲家自身は楽天的な人だったのかもしれない。最後まで気持ちよく聴けてしまうという意味では映画音楽を通り越してBGMっぽい。
あまりそんなことを書くと低級な音楽だと思われてしまうかもしれないが、そんなことは決してない。これほど構成がしっかりしていて旋律がきれいなのだから、もっと演奏されてもいいだろうし、そのうちにすごい録音が現れると思う。私自身、こんなホームページを作っていながら、今まで聴いていなかったのは恥ずかしい。NAXOSはこうした曲を盛んに取り上げては世に廉価で送り出してくれるわけだから有り難い。録音もやや残響過多とはいえ優れているし、これで780円とは安い。会社でこのページを読んでいる方、今日はCDショップに行ってこれを買って帰ることをお勧めする。いつもはクラシック音楽をかけると嫌な顔をする家族もきっとこの曲は気に入ってくれるのではなかろうか。
なお、交響曲第2番も楽しい曲である。旋律の美しさでは第1番には劣るものの、交響曲らしい堂々とした作りの名曲だと思う。
1999年3月29日、An die MusikクラシックCD試聴記