An die Musikを聴く
シューベルト:音楽に寄せて(An die Musik)
ソプラノ:エリー・アメリング
ピアノ演奏:ダルトン・ボールドウィン
録音:1982年 PHILIPSこのページのタイトルはご存知のとおり、この曲から取っている。"An die Musik"は、シューベルトの大変有名な歌曲である。色恋を歌った曲ではない。題名からも類推できるかもしれないが、音楽に対する感謝の気持ちを歌った曲である。わずか3分ばかりの短い曲でありながら、音楽にぬくもりが感じられ、聴く人の心を温めてくれる。
シューベルトはどんなに出来の悪い歌詞に対しても最高の音楽をつけてしまう驚くべき才能を持っていたといわれるが、この歌詞は悪くない。音楽を聴いて慰められた人は多い。何でもない音楽が、人が生きるよりどころになったりする。このSchoberの歌詞はそんな音楽の一面をよく表現していると思う。シューベルトの音楽は慰めと感謝に満ちあふれ、聴き手の心をとらえて放さない。
ご参考に、このCDの解説についている歌詞の訳文を転記すると、以下のとおりである。
やさしい芸術よ、なんと数多くの灰色の時、
人生の荒々しさが私を囲み捕らえた時に、
あなたは私の心に火をつけて暖かい愛情を感じさせ、
よりよい別世界に運んでくれたことでしょう!あなたの竪琴から流れる溜息が、あなたの甘く清らかな諧音が、
しばしば私によりよい時の天国を開いてくれました。
やさしい芸術よ、私はそれをあなたに感謝します!訳文は日本語解説を担当された三善清達さんの手になるものと思うが、あまり詩的ではない。特に<諧音>という言葉には首をひねってしまう。原文では"Akkord"となっており、「ははぁ、英語の"Accord"か」と分かるのだが、ドイツ語辞書にもいい訳が載っていない。思い切って「調べ」と訳してしまってもいいような気がする。<諧音>という違和感が残る言葉よりはいいと思うのだが...。
閑話休題。この曲は私がホームページのタイトルにしただけあって、学生の頃から何回も聴いた。このCDは録音もよく、発売当時は「アメリングが目の前で立って歌っているようだ」とまで絶賛された。オーディオ機器のリファレンスにもかなり使われたと記憶している。私の貧弱な装置ではとてもそうは聞こえなかったが、購入以来、全く飽きずに何度も繰り返して聴ける"An die Musik"はこのCDだけである。アメリングさんのふくよかな声を聴いていると、いつも天にも昇るような気分になってくる。異論はあると思うが、この演奏に浸りすぎたため、シュヴァルツコップフのCDは私は楽しめない体になってしまった。そんな状態であるから、ホームページのタイトルはシューベルトのこの曲から取ったというよりも、アメリングさんが歌うこの曲から取った、という方が正しいくらいなのである。
なお、このCDにはアメリングさんが歌うシューベルトの粒よりの歌曲がたくさん入っている。有名でない曲もあるが、どれもアメリングさんの逸品だと思う。また、歌曲は別にCDを買ったからと言って最初から最後まで通して聴く必要はないと思う。気に入った曲だけ聴いてもよいと私は考えている。シューベルトの歌曲をもし知らない人がいれば、いきなり「冬の旅」や「白鳥の歌」を聴かずにこうしたCDをつまみ食いしながら聴くのもよいと思う。
収録曲
- 音楽に寄せて 作品88の4 D.547
- 妹の挨拶 D.762
- 私の挨拶を 作品20の1 D.741
- 花の言葉 作品173の5 D.519
- 月に寄せて D.296
- 夕べの情景 D.650
- 春の憧れ D.957の3
- 最初の喪失 作品5の4 D.226
- 夜の賛歌 D.687
- 星 D.684
- 少年 D.692
- 子守歌 作品98の2 D.498
- ベルタの夜の歌 D.653
1999年5月12日、An die MusikクラシックCD試聴記