ガーディナー指揮による合唱曲を聴く
SDGの「ドイツ・レクイエム」ほか

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 ガーディナーは自分の音楽を追究するために合唱団やら管弦楽団を組織しています。組織された団体は、モンテヴェルディ合唱団、イングリッシュ・バロック・ソロイスツ(前身はモンテヴェルディ管弦楽団)、オルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティークと続いています。いったん組織化するだけでも大変な労力が必要とされるのに、それを維持しているのですから、彼には事業家としての天分があるのでしょう。これだけも十分立派なのに、彼は独自のレーベルSDG(Soli Deo Gloria)まで立ち上げていますね。こうした指揮者を私は他に知りません。

 そのSDGからブラームスの交響曲シリーズがリリースされていました。交響曲だけで終わるかと思いきや、「ドイツ・レクイエム」もリリースされました。1990年のPHILIPS盤から18年後の再録音です。

CDジャケット
  • シュッツ:「あなたの住まいはいかに麗しいことか」SWV 29
  • シュッツ:「今からのち主にあって死ぬものは幸いである」SWV 391
  • ブラームス:ドイツ・レクイエム 作品45

ジョン・エリオット・ガーディナー指揮

  • オルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティーク
  • モンテヴェルディ合唱団
  • キャサリン・フーグ:ソプラノ
  • マシュー・ブロック:バリトン

録音:

  • シュッツ:「あなたの住まいはいかに麗しいことか」
    録音:2007年10月28日、ロンドン、ロイヤル・フェスティヴァル・ホールにおけるライブ録音
  • シュッツ:「今からのち主にあって死ぬものは幸いである」
    録音:2007年11月18日、パリ、サル・プレイエルにおけるライブ録音
  • ブラームス:2008年8月19日、エジンバラ、アッシャー・ホールにおけるライブ録音


SDG(輸入盤 SDG 706)

 この「ドイツ・レクイエム」は私の期待を大きく上回る演奏でした。今までに聴いた数々の録音と比べても、出色の出来映えです。美しさにおいて比類がなく、心にしみてきます。特徴的なのは、この曲がオーケストラを伴っているものの、それが人間の声を圧倒することがないことです。極端に書きますと、まるで無伴奏の声楽曲を教会で聴いているような気になるのです。もちろん第2曲や第6曲ではオーケストラが地響きを立てる様を耳にすることができますが、声楽が入ってくるとたちまち主役の座を譲っています。その声楽の部分は、コンサート会場で収録されたものであるにもかかわらず、教会で、しかもすぐ目の前で演奏されているように聞こえるのです。また、古楽器による、渋く、くぐもった響きのオーケストラの音が人間の声にしっかり溶け合っているのもこの演奏の魅力です。これはたまりません。 

 名盤の誉れが高いPHILIPSの旧録音は、古楽器による「ドイツ・レクイエム」初録音でもあり、十分に優れた演奏でした。しかし、音に関しては私はあまり感心していませんでした。古楽器を駆使していながら、その響きが十分に収録されていなかったからです。オーケストラも、人の声も遠く感じられたのです。SDG盤でその不満は解消されました。

 ところで、SDGのブラームス・シリーズはCDでクラシック音楽を聴くオールド・マニアに的を絞ったのでしょうか、パッケージ商品として実に魅力的でした。厚手の紙によるジャケットは書籍のような作りになっています。手にするとちょっとした重みがあります。そして、独特のプログラムに瞠目します。この「ドイツ・レクイエム」も、単独で発売してもおかしくはなかったのに、シュッツの合唱曲を2つ冒頭に収録しています。その合唱曲は「ドイツ・レクイエム」に関連があるのです。1曲目は、「あなたの住まいはいかに麗しいことか」で、これは「ドイツ・レクイエム」の第4曲と同一の詞に基づくものです。また、2曲目の「今からのち主にあって死ぬものは幸いである」は「ドイツ・レクイエム」終曲と同じ詞で始まっています。こうした曲を演奏し、CDの冒頭に配置するのは、やはりガーディナーならではでしょう。

 ガーディナーのブラームス・シリーズでは交響曲1曲につき、1枚のCDが制作されています。そのひとつひとつに合唱曲数曲が前半のプログラムとして配置されています。私にとっては交響曲そのものを聴くよりも、その前に収録された合唱曲を聴くのが楽しみでした。

 一例を挙げます。交響曲第1番のCDです。

CDジャケット
  • ブラームス:「埋葬の歌」 作品13
  • メンデルスゾーン:「われら、人生のただ中にありて」 作品23ー3
  • ブラームス:「運命の歌」 作品54
  • ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 作品68

ジョン・エリオット・ガーディナー指揮

  • オルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティーク
  • モンテヴェルディ合唱団

録音:2007年10月28、29日、ロンドン、ロイヤル・フェスティヴァル・ホール及び
2007年11月15,16、18日、パリ、サル・プレイエルにおけるライブ録音
SDG(輸入盤 SDG 702)

 このCD冒頭には「埋葬の歌」が収録されています。正直申しあげて、とてつもなく暗い曲です(この曲についてはこちらをご参照ください)。私は地の底を覗き込むような暗さに驚愕しつつも、その魅力に引き込まれて何度も聴いてしまいました。先般、指揮者アバドが亡くなった際も追悼のために聴いたのはアバドがロンドン交響楽団を指揮したロッシーニの序曲集とガーディナー指揮によるこの「埋葬の歌」でした。

 「埋葬の歌」は、このCDがなければ出会うことのなかった曲です。大量のCDを世に送り出してきたガーディナーでしたが、こういうプログラムでのCD制作は自前のレーベルでなければ叶わなかったのでしょう。難しいものですね。

 

(2014年3月2日、An die MusikクラシックCD試聴記)