アーノンクール指揮ウィーンフィルに聴くブルックナーの響き

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CDジャケット

ブルックナー
交響曲第5番 変ロ長調
アーノンクール指揮ウィーンフィル
録音:2004年6月7-14日、ウィーン、ムジークフェライン
BMG(輸入盤 82876 60749 2)

 

 ブルックナーの交響曲第5番は、おそらくブルックナーファンにとって、第8番や第9番に匹敵するか、それ以上の人気を持つ曲だと思う。長大な曲ではあるが、よい演奏に当たれば、ブルックナーらしい神々しさを心底感じさせてくれるし、全曲を聴き通したときのカタルシスは何物にも代えようがない。ただし、そのカタルシスを得るには、最初から最後までじっくりこの曲につき合わなければならない。つまみ聴きをすると、この曲の醍醐味を味わうことができない。

 ・・・などと私はついこの前まで考えていたのだが、昨年アーノンクール指揮ウィーンフィルによる異色のCDが現れた。何がすごいかというと、「音」なのである。演奏以前にまろやかなオーケストラの音に魅了される。このCD(正確にはSACD/CDハイブリッド盤)を買って聴いた人は多いと思うが、音そのものに惹かれた人は多いのではないか。どこにもざらついた響きはなく、ソフトである。金管楽器の強奏にしても鋭さよりは丸みを感じる。我が家の再生装置では少なくともそう聞こえる。これはオーケストラがそうした響きを出せたこともあるだろうが、それを収録した技術陣の力も大きいと思う。

 1950年代半ばから1960年初頭のステレオ録音を聴くと、録音技術がその後50年近くにわたってほとんど進歩していないのではないかと思うことがある。私は1950年代の録音にストレートな力強さを感じる場合が多く、それ故に大変愛好しているCDがあるのだが、このブルックナーを聴いて、録音技術がもしかすると新たな局面に入ってきたのかもしれない、などと考えてしまった。

 無論、優れた装置で再生すると様々な問題が生じる可能性もあるだろうが、普通の家庭におけるリスニング環境ではひたすら美しい音が部屋中に広がるのではなかろうか。近い将来、ブルックナーの交響曲第5番の録音の中では最も美しい音が聴けるCDに数えられるようになるのではないかと私は思う。

 ただし、演奏は、そのまろやかな響きのために好き・嫌いがはっきり分かれるだろう。優れた演奏であるのだが、私は全面的に肯定するわけにはいかない。俗な言葉で言えば「いっちゃった」ブルックナーが作ったこの大曲が、あろうことか、かのアーノンクールの指揮によってこれほどまろやかな響きの中で再現されたことに私は驚きを禁じ得ない。アーノンクールも全く人が悪いものだと思う。

 

(2005年2月17日、An die MusikクラシックCD試聴記)