フリッチャイを聴く

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 姪のRちゃんは今小学校6年生で、部活はブラスバンド。パートはトランペットで、しかも部長を務めています。そのRちゃんが、「今度ドヴォルザークをやるんだよ」といいます。パート譜を見せてもらうと、どうやら「新世界から」第4楽章をほぼ原曲をなぞるようにしてブラスバンドで演奏するようです。

 ところが、Rちゃんはこの曲が本当はどのようなものか知りません。そこでおじさんの私は早速CDをプレゼントすることにしました。

CDジャケット
カラヤン指揮ウィーンフィル盤。カップリングはスメタナの「モルダウ」

 何をプレゼントしたかというと、カラヤン指揮ウィーンフィル盤(1985年録音、DG)でした。これはカラヤンらしいというべきか、らしくないというべきか、ウィーンフィルを豪快にかき鳴らした演奏で、録音も良く、入門用として申し分ないだろうと考えてのことでした。特に第4楽章で爆発するウィーンフィルのパワフルな演奏ぶりは、Rちゃんにも楽しめるだろうと思いました。が、後でふと「私としたことが・・・」とちょっと反省してしまいました。他にもっと好きな演奏があったからです。

 では、何なら良かったのか。例えば、フリッチャイ盤です。以下のCDがそうです。

CDジャケット

ドヴォルザーク
交響曲第9番 ホ短調 作品95「新世界から」
フリッチャイ指揮ベルリンフィル
録音:1959年10月、ベルリン、イエス・キリスト教会
スメタナ
交響詩「モルダウ」
フリッチャイ指揮ベルリンフィル
録音:1960年1-2月、ベルリン、イエス・キリスト教会
リスト
交響詩「レ・プレリュード」
フリッチャイ指揮ベルリン放送響
録音: 1959年9月、ベルリン、イエス・キリスト教会

DG(輸入盤 463 650-2)

 

 フリッチャイのCDはDGから少なからず出ています。大量に録音がある割には何となく古めかしい印象が拭いきれないのですが、それは当然で、彼は1963年に死んでいます。ステレオ録音も残っていますが、モノラル録音が多く、DGも古色蒼然とした雰囲気を残したジャケットを使い続けています。また、フリッチャイが指揮したオーケストラはベルリンRIAS交響楽団などというこれまた一般人にはよく分からないものが多数含まれています。

 上記CDはフリッチャイがベルリンフィルという名門中の名門を使って録音し、それもステレオで収録されていますが、私は小学6年生にいきなりこれをプレゼントするのはどうかと逡巡し、カラヤン盤を選んだのでした。

 しかし、後でこれを聴き返してみると、まさに圧倒的な演奏です。交響曲としての重厚な風格を持ち、「新世界から」という表題を頭から消し去らせます。音はずっしりと重く、分厚い低音に支えられて堅牢に交響曲が作り上げられている様を感じさせます。オーケストラも気のせいかこちらの方が数段パワフルに感じます。弦楽器の音も、金管楽器の音も、そしてティンパニの音も! それはもう身震いするほどです。フリッチャイとベルリンフィルは、悪くいえば都会的洗練を放擲して無骨なドイツ音楽を追求したのだろうと思われます。ドヴォルザークはボヘミアの作曲家なのに。

 このCDの音も、デジタル録音のカラヤン盤に勝るとも劣りません。強烈に生々しく、強力な楽隊が目の前で演奏しているように思えます。

 1959年の演奏ということは、ベルリンフィルはカラヤン時代に突入しています。それにもかかわらず、質実剛健、我々が「ドイツ風」などとつい想像しがちな、いかにも古めかしい音で楽しませてくれます。そう、フリッチャイのCDが古めかしく見えるのは正しいのかもしれません。「古めかしく見える」のは別に悪いことではない。だって、そのとおりなのだから。それをプラスに評価するのか、マイナスに評価するのかで全く聴き方が変わってきてしまいます。が、ここには、その後に失われてしまった古い演奏スタイルや音がありそうです。

 さて、Rちゃんに今度このCDを聴かせたら気に入ってくれるでしょうか。

 

(2005年10月17日、An die MusikクラシックCD試聴記)