ヤナーチェクの弦楽四重奏曲を聴く

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CDジャケット

ヤナーチェク
弦楽四重奏曲第1番「クロイツェル・ソナタ」
弦楽四重奏曲第2番「ないしょの手紙」
ヤナーチェク四重奏団
録音:1963年5-6月、プラハ、ルドルフィヌム(第1番)/1963年7月、プラハ、ドモヴィナ・スタジオ(第2番)
SUPRAPHON(国内盤 COCQ-83825)

 確か2年近く前に発売された「スプラフォン・ヴィンテージ・コレクション」の1枚。40年も前の録音ですが、演奏も音も実に生々しく、スピーカーから音が迫ってきます。弦楽四重奏曲の録音は、デジタル期になって、各セクションの分離を強調するあまり、線の細い音の演奏が増えたように私は感じています。それはそれで曲の作りを把握しやすいというメリットがありますし、高度なアンサンブルを持つ団体の場合、その精緻なアンサンブルを味わうのに適しています。しかし、それで音楽を心から楽しめるかといえば私の場合必ずしもそうではありません。演奏がばらばらに聞こえることが多いからです。いかにもアナログ的なこのCDの音に私は大変好感を持ちます。

 このヤナーチェク四重奏団の演奏を「生々しい」と書きましたが、肉感的とも言えるかもしれません。有機的と呼ぶこともできるでしょう。弦楽四重奏曲第2番ではテンポや奏法、気分がめまぐるしく変わっていき、かつて私はやや狂騒的だと感じていたのですが、ヤナーチェク四重奏団の演奏で聴くと、音楽の流れに強力な説得力があるのです。分析的に聴こうとしてもすぐ曲に没頭させられます。

 ヤナーチェクの音楽はチェコの団体による演奏で聴くべきであるなどという考えは私は持ち合わせていませんが、この演奏の生々しさを前にすると、演奏家達によるこの楽曲とその表現方法に対する理解の深さが他とは全く異なる次元にあるように思えてなりません。いくらアンサンブルが優れている団体であっても、それだけでは聴き手に作曲家の作った音楽そのものを届けることができないのでしょう。技術を聴くのも楽しみのひとつでありますが、作曲家が表したかったことを聴き手に届けるには、その音楽に対する深い理解と共感がなければどうにもなりません。ちょっと大げさですが、私はこのCDを聴いて初めてヤナーチェクの弦楽四重奏曲を理解したと言えます。特に第2番のできばえは曲の良さもあいまって大変な高みに達していると思います。

 ところで、私はこのCDを2年近く前に買っていたのですが、CD棚に並べたまましばらくほったらかしにしていました。このスプラフォン・ヴンテージ・コレクションには、私が初めて聴いたチャイコフスキーの交響曲第5番(マタチッチ指揮チェコフィル)が入っていたので、懐かしさのあまり他のCDもいくつか一緒に購入していました。そのチャイコフスキーを聴いたところ、期待が大きすぎたのか、25年前の興奮は甦らず、一緒に買った他のCDも聴く気が失せていたのでした。ヤナチェクのCDは、最近たまたま聴いてみたところ、その演奏にも音にもすっかり心奪われてしまったのです。そこでスプラフォン・ヴィンテージ・コレクションを次から次へと聴いてみると、優れた演奏が実に多く、しばらく放置していたことが悔やまれてなりません。買ってきたCDは早めに聴いてみるべきですね。

 

(2006年3月12日、An die MusikクラシックCD試聴記)