CDジャケットに見る演奏家の表情 小山実稚恵さんの場合

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 昨日(2007年4月3日)に掲載された松本武巳さんの「2人の同世代日本人女性による《ショパンのバラード全集》聴き比べ」の中に、私、伊東が登場しているので、完全に蛇足であることを承知しつつも追記してみます。

 仲道郁代さんと小山実稚恵さんは、さいたまでの演奏回数が多いせいか、私には馴染みのある演奏家です。このお二人なら集客にが困らないと主催者が読んでいるために、さいたま公演がたびたび実現するのでしょう。

 人的なつながりもある(あった)と思われます。つい先頃まで彩の国さいたま芸術劇場の芸術総監督であった諸井誠さんが仲道さんを招いてベートーヴェンのピアノソナタ全曲レクチャーコンサートを開いていました。また、私の記憶に間違いがなければ、さいたま芸術劇場のピアノの選定に関して、小山実稚恵さんはかなり深く関わっているはずです。諸井誠さんという人物が介在していますが、仲道さんも小山さんもさいたまとは深い関わりがあるのですね。

 ・・・それでコンサートに行くようになった私ですが、少なくとも小山さんに関しては半ば追っかけ状態になってきました。というより追っかけています。彼女がスタートさせた12年間・24回のコンサート企画「小山実稚恵の世界」は万難を排して聴きに行く所存であります。

 その小山さんのCDをぽつぽつと集めては聴いていた私ですが、1枚特に好きなものがあります。以下のCDです。

CDジャケット

バッハ:パルティータ第2番 ハ短調 BWV826
ベルク:ピアノ・ソナタ 作品1
リスト:ピアノソナタ ロ短調
ショパン:

  • マズルカ第36番 イ短調 作品59-1
  • マズルカ第37番 イ長調 作品59-2
  • マズルカ第47番 イ短調 作品67-4

ピアノ:小山実稚恵
録音:1998年6月22-24日、彩の国さいたま芸術劇場
SONY(国内盤 SRCR 2339)

 ご覧のように我が地元にある彩の国さいたま芸術劇場で録音されています。一晩のリサイタルそのままのプログラミングからしてすばらしいです。バッハのパルティータ、ベルクのソナタを聴いた後、本当にインターミッションを入れて後半をじっくり聴きたくなります。長大なロ短調ソナタを後にはアンコールよろしくショパンのマズルカが! パルティータの第1曲「シンフォニア」から夢見るようなピアノの響きにとらわれるので、「こんな録音があの場所で?」と驚くことしきりです。私の隠れた愛聴盤であります。

 演奏の白眉は、リストのピアノソナタで、これは彼女の自信が漲る堂々の演奏です。さらに、CDジャケットのに登場する彼女の表情は、それを如実に表していると思います。

 小山さんはこの10年も前にリストを録音していました。旧録音のジャケット写真は以下のようなものです。

CDジャケット

リスト:
ピアノソナタ ロ短調
ラフマニノフ:
前奏曲集

ト長調 作品32-5、イ短調 作品32-8、ニ長調 作品23-4、ト短調 作品23-5、変ホ長調 作品23-6、ハ短調 作品23-7、嬰ハ短調 作品3-2、嬰ト短調 作品32-12、ホ長調 作品32-3、変ロ長調 作品23-2

ピアノ:小山実稚恵
録音:1987年12月22-24日、バッハ・ホール(宮城)
SONY(国内盤 SRCR 9142)

 演奏を聴く以前にジャケット写真にギョッとします。1987年という時代背景とデビュー2作目のCDであったことを考えると、こうした衣装を着せられるのは致し方ないと思いますが、どうみても飾り物のお人形に見えてしまいます。どうしてもこれが「地」の小山さんだと私には思えません。

 リストの演奏は彼女としても力演熱演なのだと思いますが、新録音と比べると、何かが足りない。新録音には何か特別なものがある。その何かとは、曲を完全に自分のものにしたという自信からくる余裕なのではないかと私は思っています。10年以上の年月に彼女がどれだけリストに向かい合ってきたのかが新録音の演奏を聴いてもCDジャケットを見ても分かるような気がします。

 リストの新録音が出てからもう10年が経過しようとしています。次はどんなCDジャケットでどんな演奏を聴かせてくれるのか、追っかけおじさんは楽しみでなりません。

 

(2007年4月4日、An die MusikクラシックCD試聴記)