メンデルスゾーンの交響曲第2番「賛歌」を聴く
メンデルスゾーン
「真夏の夜の夢」序曲 作品21
(1826年原典版)
讃歌 聖書の言葉による交響カンタータ 作品52
(1840年原典版)
- リッカルド・シャイー指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
- ソプラノ:アンネ・シュヴァネヴィルムス
- ソプラノ:ペトラ・マリア・シュニッツァー
- テノール:ペーター・ザイフェルト
- ライプツィヒ・オペラ合唱団
録音:2005年9月2-5日、ライプツィヒ、ゲヴァントハウスにおけるライブ
DECCA(輸入盤 475 6939)シャイーはゲヴァントハウス管のシェフ就任コンサートで、ご当地ゆかりの作曲家メンデルスゾーンを演奏しました。しかも、「真夏の夜の夢」序曲は1826年の原典版、「賛歌」は1840年の原典版を使うという点でいかにもシャイーらしい拘りが感じられます。
最初に「真夏の夜の夢」です。これはクラシック音楽の中でも特異な位置を占める曲です。なぜなら、永遠の若さを表しているからです。膨大な数のクラシック音楽を聴いてきた後で振り返っても、このような曲は他にありません。全くすがすがしいです。そして、生気に溢れ、躍動感があり、精妙でちょっとお色気がありそうです。シャイーの演奏を聴いてその思いを新たにしました。
次がメインの交響カンタータ「賛歌」です。ライプツィヒ市が1840年6月のグーテンベルク聖書400年記念祭に向けてメンデルスゾーンに委嘱してできた作品だといいます。今では「交響曲第2番」と呼ばれるものであります。しかし、私の手許にある輸入盤CDには「交響曲第2番」という表記がありません。日本語での呼称はどうも一定していないようですが、やや長い「讃歌 聖書の言葉による交響カンタータ」というのはメンデルスゾーン自身がつけたタイトルですから、1840年原典版を使ったシャイーとしてはタイトルもオリジナルにしたかったのでしょう。
この曲はめっぽう面白くて、シャイーの演奏で57分もかかるのに全く飽きさせません。最初に3楽章形式のシンフォニアがあり、その後声楽が入ります。熱烈に、崇高に、壮大に曲が盛り上がっていきます。この構成からだと、いかにもベートーヴェンの交響曲第9番を模したような印象を受けるのですが、受ける印象が全く異なります。ベートーヴェンの「第9」が持つ四角四面の固さがこの曲にはないのです。かなり親しみやすい曲です。
このCDでは、オーケストラも、声楽陣も技術的な精度が高く、情感も豊かです。音質的にも最近のDECCAらしい音がしています。バランスの良さが光ります。地味なCDではありますが、この曲の代表的な録音として残るかもしれません。
面白いことに再録音魔のシャイーはこの曲を1979年に録音していますね。単にライプツィヒゆかりの作曲家の曲だからこの曲を選んだわけではないようです。
メンデルスゾーン
交響曲第2番 変ロ長調 作品52「賛歌」
- リッカルド・シャイー指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
- ソプラノ:マーガレット・プライス
- ソプラノ:サリー・バージェス
- テノール:ジークフリート・イェルザレム
- ロンドン・フィルハーモニー合唱団
録音:1979年3月28-30日、ロンドン、トゥーティング
PHILIPS(国内盤 35CD-485)ゲヴァントハウス盤では57分で演奏していますが、ロンドン・フィル盤は70分もかかっています。それを知るにいたって私は1840年の原典版が通常版といかに違うのかやっと気がつきました。交響曲第2番としての通常版では曲のかなりの部分に手が入れられているようで、少しずつ演奏時間が長くなっています。シャイーはこの曲をふたつの版で演奏し、録音したという点でCDマニアにとってはまことに貴重な指揮者となりました。私は原典板と通常版に甲乙がつけられません。
しかし、録音そのものには特徴があります。DECCAの録音は演奏も音もバランスが良いのですが、PHILIPSの録音ではオルガンが突出しています。メンデルスゾーンの交響曲第2番のCDは多数を聴き比べしてみましたが、このPHILIPS盤のオルガンが最も盛大に収録されています。良く言えば、このオルガンがPHILIPS盤の熱狂度を高めているのですが、悪く言えばバランスが悪く、音楽の美質を損なっています。合唱団がDECCA盤よりやや弱い点でもバランスを欠くとも言えます。どのようなCDにも良いところを見つける私としては、この当時のPHILIPSの音が大好きですし、このオルガンの音を聴いた上でシャイーがリリースの承諾をしているでしょうから、私としてはPHILIPS盤を否定する気も、マイナス点をつける気にもなりません。実はかなり気に入っております。皆さんも手許にあるこの曲のCDを聴き直してみてください。オルガンの音はどうなっていますか? その聴き比べはかなり楽しいですよ。
いろいろ聴き比べした中で、最もユニークだったのが以下のCDです。
メンデルスゾーン
交響曲第2番 変ロ長調 作品52「賛歌」
- ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
- ソプラノ:エディット・マティス
- ソプラノ:リーゼロッテ・レープマン
- テノール:ヴェルナー・ホルヴェーク
- ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団
録音:1972年9月、ベルリン・イエスキリスト教会
DG(輸入盤0431 471-2)オルガンの音は聞こえてきません。入っているのでしょうか? それはともかく、カラヤン盤で聴くと、この曲がメンデルスゾーンの曲に聞こえません。シンフォニアの冒頭にあるトロンボーンの旋律からしてブルックナーのコラールを聴いているようです。それこそカラヤンのブルックナー交響曲第5番(DG)を彷彿とさせます。また、ヒロイックな場面になればなるほどカラヤンの独壇場になるのですが、メンデルスゾーンの「賛歌」は機甲師団による凱歌に変貌しています。合唱団には、まるで受難曲を歌うような壮烈さが滲み出ています。カラヤンが指揮台に立つというのはこういうことかと思い知らされます。カラヤンはこの曲を一度も実演では取り上げなかったのに、後世には自分の強烈な刻印を残したのですね。驚くほかありません。
(2015年2月8日、An die MusikクラシックCD試聴記)