シュタイアーのモーツァルト演奏
モーツァルト
ピアノソナタ第10番 ハ長調 K.330(300h)
ピアノソナタ第11番 イ長調 K.331(300i)
ピアノソナタ第12番 ヘ長調 K.332(300k)
フォルテピアノ:シュタイアー
録音:2004年3月
harmonia mundi(輸入盤 HMC 901856)破天荒なCDが出たものです。モーツァルトのピアノソナタ、特に「トルコ行進曲」付きのイ長調を聴いてびっくり仰天したのは、グールド盤以来です。発売に踏み切るにはプロデューサーをはじめとする関係者も少なからぬ決断を要求されたのではないかと思われます。
CDを聴き始めるとすぐにシュタイアーの遊びの世界に接することになります。曲中には派手に独自の装飾音が入っていて、「おや」と思わせられますが、聴き進むに連れ、それが驚きに変わります。圧巻は何といっても「トルコ行進曲」でしょう。モーツァルトの原曲がジャズ並みにアレンジされています。これはもはや装飾音の処理をどうするこうするという次元を完璧に超えていて、シュタイアーの好き放題。自分だけで聴くのはもったいないので、すぐに人に聴かせたくなります。
これはモーツァルトのピアノソナタのCDを初めて買う人にはまず勧められないCDでしょう。が、シュタイアーの即興性の強いこのモーツァルト演奏はピアノフォルテという千変万化する響きを持つ楽器の素晴らしさと相俟って大変魅力的であります。おそらくクラシック音楽関係者の何割かからは冷たい視線を向けられそうなCDではありますが、私はすっかりこのCDが気に入ってしまい、既に数え切れないほどの回数を聴いてしまいました。どの曲も生き生きとしていますし、私はこのCDをキワモノとは考えていません。
シュタイアーは初めシューベルトのピアノソナタ録音で私の前に登場しました。ピアノフォルテという私には馴染みの薄い楽器を使った演奏でしたが、面白いとは思ったものの強い印象は受けませんでした。その後、シューベルトの歌曲「冬の旅」でプレガルディエンの伴奏をするシュタイアーのCD(TELDEC、1996年録音)を聴いてそのフォルテピアノの美しさを認識し、非常な好感を持ちました(「冬の旅」のベストCDのひとつではないかと私は考えています)。ついこの前までシュタイアーがよもやこのような遊び心に溢れたモーツァルトのCDを世に問うなどとは想像もしていませんでした。今後この人はどのような道を歩むのでしょうか。とても気になります。
2005年5月8日、An die MusikクラシックCD試聴記