オーディオ篇 「プロジック」について

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 私は学生の頃から20年以上かけてCDを蒐集していますが、1枚でも多くのソフトを買うことを優先してきて、オーディオはある程度聴ける音が出ればいいと考えていました。オーディオを追求し始めると馬鹿みたいに巨額の投資が必要になることがオーディオへの歯止めとなってきました。その一方で、自分が持っているソフトを、よりよい環境下で、よりよい音で聴いてみたいという欲求も捨てきれないのが実情でした。そんな私ですが、最近少しオーディオに投資をしました。

 そのきっかけになったのは「Classical Music Fun」を主宰するFalkeさんに連れて行ってもらった群馬県伊勢崎市の「プロジック」でした。「プロジック」は超絶的な耳の持ち主である石黒社長が経営するオーディオショップであります。ここに私はいくつかのCDを持ち込み、試聴しました。皆さんがご存知のCDも多数含まれています。例えば下記の「フィガロ」です。

 

■ プロジックの音に仰天する

CDジャケット

モーツァルト
歌劇「フィガロの結婚」全曲
エーリッヒ・クライバー指揮ウィーンフィル、他
録音:1955年6月、ウィーン
DECCA(輸入盤 417 315-2)

 

 これは父クライバーによる名演奏のひとつで、「フィガロの結婚」の代表的な録音にも数えられているものですね。1955年のステレオです。父クライバーならではの音楽を満喫できるため、私はこの演奏を好んで聴くのですが、55年録音だけに音の古さは隠し切れません。弦楽器の音がちょっとかさかさになっています。私はこれが少しでも改善されているのであればリマスタリング盤を購入しようかと密かに計画していました。実際リマスタリング盤を聴くと、かなりの音質改善が見られ、楽器の輪郭線がより明確になっています。が、それでも乾いた弦楽器の音は劇的に良くなるわけもなく、基本的にはそのままです。これは相当ハイエンドの機材を使って聴いても変わりませんでした。

 ところが、この古い盤をプロジックのメイン試聴室でかけたところ、まるで新録音のようなみずみずしい音で鳴り始めたのです。これにはあっけにとられました。これは「プロジック」のホームページのトップ画面にあるように、B&Wのスピーカーとゴールドムンドのアンプの組み合わせによるものですが、私にとっては衝撃的な事件でした。よもや自分の古いCDにこのような音が詰め込まれていたとは思いもよらなかったからです。それを機に、私はオーディオにもう少し投資をすることを考え始めました。

注:当日私が聴いた正確な機材は以下のとおりです。

スピーカー:B&W シグネチュア800
CDトランスポート:ブルメスタ(独) 979
DAコンバーター:ゴールドムンド ミメシス21エヴォリューション
プリアンプ:ゴールドムンド ミメシス27エヴォリューション
パワーアンプ:ゴールドムンド ミメシス29ME

 

■ 何をしたか

 

 まずはCDの情報量を引き出すことを狙い、DENONの「DCD-SA11」を発注しました。石黒社長は、これにチューンアップをしてさいたま市南区の我が家まで納品して下さいました。その際、クリニックをしながら電源コンセントベースコンセント、CDプレーヤーの電源ケーブルラインケーブル等も変更し、さらにCDプレーヤーには水晶のインシュレーターをかませるという処置を施しました。

 スピーカーケーブル(SPC-F)も発注しました。が、これがなかなか届きません。スピーカーケーブルというのは在庫があって、それを注文された寸法に切断し、ユーザーに送ってよこすものだと私は考えていたのですが、そうではないのですね。なんと、注文の都度制作されるようです。3週間ほどかかってスピーカーケーブルが制作されましたが、これも石黒社長が納品して下さり、バイワイヤリングの配線をしてもらいました。同時に今ある機材をそのままに、音質改善の処置を再度して頂きました。

 まず、アンプのチューンアップ、ついでアンプの電源コードの変更アコースティック・コンディッショナー(RWL-2)のスピーカー背後への設置、アンプ、CDプレーヤー、スピーカーケーブル等へピュア・シルク・アブソーバー(PSA-100)の配置をして頂きました。実は、これ以外にも多数のクリニック箇所があるのですが、私のオーディオ知識では書き切れません。

 これ以前にスピーカーのアンダーボード等の導入をしていましたので、現有機を活かして音質改善をする、という意味ではやれることを全部したといった状況です。中には「これはオカルト的なので商品化する予定はないのですが、使ってみて下さい」といって設置して頂いたものもあります。それが何なのかは秘密にしておきますが、確かに音質が向上しているのであります。全く不思議な世界なのですが、石黒社長の施した処置には科学的な裏付けがあり、実際に私は耳で聴いて確認しながら進めたのであります。

 

■ 何が得られたか

 

 私が使っているスピーカーはB&WのMATRIX802で、アンプはラックスマンのL-509sというプリメインアンプです。プリメインアンプなど、オーディオマニアから見ればおもちゃみたいなものかもしれませんが、この組み合わせでも以前とは比べものにならない高密度、高品位の音が聴けるようになりました。一番驚いたのは、キンキンきつく感じる音がなくなったことです。これは音質的に優れているとは思えなかったジャパニーズ・ポップスを聴いても如実に感じられました。アンプのボリューム位置は依然と同じままなのに音がかなり大きくなったようにも感じますし、質感が高いので長時間のリスニングも可能になってしまいました。これだけのクリニックをしてからはひとたび自分の部屋に入るとなかなか出にくくなってしまいました。ここまでのクリニックをして下さった石黒社長に感謝です。

 このおかげで演奏までも違って聞こえるようになったCDもあります。例えば、シノーポリがシュターツカペレ・ドレスデンを指揮して録音した下記CDです。

CDジャケット

ワーグナー
「リエンツィ」序曲
「恋愛禁制」序曲
「タンホイザー」から序曲及びバッカナーレ
「パルジファル」 から第1幕への前奏曲、聖金曜日の音楽
シノーポリ指揮シュターツカペレ・ドレスデン
録音:1995年5月、ドレスデン、ルカ教会
DG(輸入盤 449 165-2)

 

 シノーポリのドレスデン録音のほとんどを私は評価してきませんでした。在任中は、「なぜこのような指揮者がシュターツカペレ・ドレスデンのシェフになってしまったのか、なぜ彼の長期政権が続くのか」と嘆くことしきりでした。これは私のシュターツカペレ・ドレスデンに対する愛情と、それ故に起きたシノーポリに対するやや歪んだ感情による偏見であったかもしれません。今冷静になって聴くと、彼の残した録音の中には耳を傾けてしかるべき演奏がいくつもあるようです。

 このCDで聴く「リエンツィ」序曲は、シュターツカペレ・ドレスデンの十八番で、来日公演でも熱烈な演奏を聴かせてくれましたが、シノーポリはルカ教会で、オーケストラの色気さえも感じさせる繊細かつ芳醇な音を引き出し、それをグラモフォンのエンジニアに収録させることに成功したようです。シノーポリに対して悪口雑言を重ねてきた私でしたが、ここでお星様になった彼に少しでも詫びを入れなければならないと痛感しています。

 ・・・
 オーディオ装置によって、演奏の評価まで変わってくることを考えると、ちょっとこわい気もしますが、今まで購入してきたCDを聞き直すいいチャンスがきたと思います。

 

■ もう少しプロジックを紹介すると

 

 プロジックは群馬県伊勢崎市にあるので、おいそれとは行けないでしょう。しかし、私のようにもう少し音を何とかしたい、けれどもどうして良いか全く分からないという人は行ってみる価値があるはずです。

 メイン試聴室では驚くべき音が聴けますが、プロジックでは、小さな試聴室が別に2つ設けられているのです。その部屋は6畳から8畳くらいの大きさで、ちょうど我々が暮らしている部屋そのものです。そうした空間でどのような機材で、どのような使いこなしをすれば音楽を楽しむことができるのかを石黒社長は教えてくれます。

 大きな部屋に高額の機材を導入し、巨大な音量で音楽、あるいは「音」を聴くオーディオマニア的な世界を石黒社長はお客さんに必ずしも推奨していません。石黒社長はよい音楽をよい音で聴けるようにクリニックをしてくれます。石黒社長がリファレンスとしているCDもいくつか拝見しましたが、ごく普通の音楽CDでした。オーディオマニアのためではなく、普通の音楽ファンのためのオーディオ店です。都心にまで出張されることがあるとおっしゃっていましたが、クリニックを依頼してみても良いかもしれません。できれば「伊東のAn die Musikを見た!」と言って下さいね。

 

「オーディオ篇 機材のグレードアップ」はこちら

 

(2005年7月20日、An die MusikクラシックCD試聴記)