これは同じ演奏なのか?
ドイツ伝統の響き シリーズを聴く
ドイツ伝統の響き シリーズ
- ウェーバー:ホルンと管弦楽のためのコンチェルティーノ ホ短調 作品45
- ロルツィング:ホルンと管弦楽のためのコンツェルトシュトゥック ホ短調
- サン=サーンス:ホルンと管弦楽のための演奏会用小品 ヘ短調 作品94
- シューマン:4本のホルンと管弦楽のためのコンツェルトシュトゥック ヘ長調 作品86
ホルン:ペーター・ダム、ほか
ジークフリート・クルツ指揮シュターツカペレ・ドレスデン
録音:1983年6月29日-7月4日、ドレスデン、ルカ教会
AVEX-CLASSICS(国内盤 AVCL-25300)店頭にこのCDが並んでいるのを見かけたとき、「一体誰がこんなCDを買うのだろうか」と思って私はCDを棚に戻したことを覚えています。これはSACDとCDのハイブリッド盤で、ショップの中ではSACDのコーナーに置いてありましたが、CD層に問題があるのです。何故か。悪名高いCCCDなのです。
メーカーはCCCDであることを「特長」と考えていたふしがあり、CDには「CCCD(コピーコントロールCD)」である旨が特筆大書されてます。CCCDについてはこちらに詳しい解説がありますのでぜひご参照頂きたいのですが、CCCDとは、通常のCDプレーヤーで聴こうとすればそのプレーヤーが故障するおそれがあり、仮に聴けたとしてもその音質は通常のCD以下となることが分かっているにもかかわらず、メーカーが作ったCDのことです。
CD層がCCCDである以上、SACD層も音質に期待できないと思い、私はこのCDを視界から完全に消していました。
ところが、今年になって平林直哉さんの著書「盤鬼、クラシック100盤勝負!」(青弓社)を読んでみると、この「ドイツ伝統の響き」シリーズのザンデルリンク指揮による数枚が絶賛されています。もしやSACD層の音はまともだったのかなと思い直し、上記ダムのCDを買ってきて聴いてみました。
結果は「まあまあ」。
Berlin Classics
(輸入盤 0093242BC)そんなに絶賛するほどのものでもないかなと私は思いました。ついでに輸入盤(左ジャケット写真)を持っていたことを思い出して比較試聴してみたところ、その音を聴いて目を見張らんばかりに驚きました。全然違う!
輸入盤の音はいかにも豪華絢爛、きらびやかな感じがします。私はこの音源については、国内盤を持っていなかったので、この音に対し疑念を持ったことは今まで一度もありませんでした。が、SACDとのあまりの違いに驚愕し、そして大きな疑問が湧いてきました。どちらが正しいのか。
録音スタッフでもなければ、ルカ教会で鳴っていた音を基準に、「こちらが正しい」とは言えません。しかし、私の経験上、シュターツカペレ・ドレスデンやペーター・ダムのホルンの音がわずかでも金属的に響いたことはありません。すると、きらびやかで、ややもすれば金属的な響きがする輸入盤の音より、最初は「まあまあ」としか感じられなかったSACDの音の方が正確にその音を表しているように感じられてきます。
そう思ってSACDを聴き直すと、これが実にすばらしい。よくもここまで柔らかいホルンの響きやオーケストラの響きを表現できるものだと感心します。初めに「まあまあ」などと感じたのは、要するに音があまりに自然であったことを例証するものとなりました。
輸入盤の音を貶したいがためにこの文章を書いているわけではありません。輸入盤しか知らなければ、それを頼りにシュターツカペレ・ドレスデンやダムの評価をせざるを得ないわけで、実際私は輸入盤の音を聴いてその演奏の良さを聴き取っていたわけですから、一概に輸入盤が良くないなどとは言えません。
ここで言いたいのは、以下のことです。
- 同一音源のCDが複数出ているなら、いくつかは聴き比べする価値はある。中には丁寧にリマスタリングされ、曲や演奏の印象さえも左右しかねない違いが認められる場合がある。今回はその典型例。
- 徳間ジャパンの国内盤の音は、輸入盤より優れていることが旧東独の録音を集めているファンには知られていたが、今回の「ドイツ伝統の響き」シリーズはその良さを受け継いだ立派なシリーズらしい。他の盤も多数試聴し、その思いを新たにした。
もしこのハイブリッド盤のCD層がCCCDになどなっていなければ多くの人に勧められるのに、全く残念です。メーカーが目先のことばかり考え、優良な資源を事実上無駄にしています。これは事実上のSACDシングルレイヤー盤です。もしSACDプレーヤーをお持ちなら、柔らかなホルンとオーケストラの響きを満喫できるディスクとして強くお勧めしますが、SACDプレーヤーの普及率は、一体どれだけあるのでしょうか。きちんとしたCD層を持つハイブリッド盤を作り、それが評価されれば、次のシリーズが企画されるのに。全くもったいないシリーズだと思います。
(2006年2月2日、An die MusikクラシックCD試聴記)