シューマンのバイオリン協奏曲を聴く

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 音楽家に見えるもの

CDジャケット

シューマン
バイオリン協奏曲ニ短調
メンデルスゾーン
バイオリン協奏曲ホ短調 作品64、他
ドラティ指揮ロンドン響
バイオリン:ヘンリック・シェリング
録音:1964年7月、ロンドン
MERCURY(国内盤 PHCP-20395)

 

 シューマンは1810年に生まれ、1856年に死んだ。彼にとっては最晩年になる1853年にこの曲は作曲されたという。解説によれば、かの大バイオリニスト、ヨアヒムが演奏するベートーヴェンのバイオリン協奏曲に刺激されて作曲されたらしい。シューマンの霊感が冴えていたのか、全曲は9月21日から10月3日の間、わずか13日で作曲された。

 ところがその後にこの曲は封印されてしまう。シューマンは作曲後スコアを10月7日にはヨアヒムに送り、献呈した。ここからが謎である。あろうことかヨアヒムはこれを自分の信託財産と見なし、公衆の前で演奏しないことにしたばかりか、出版も許可しなかったという。英文解説には、「ヨアヒムは作曲家の死後100年間演奏と出版を遺書の中で禁じた」とまである。

 初演は1938年2月にロンドンで行われた。1937年にヨアヒムの遺品の中からこの曲が発見されたのがきっかけである。

 さて、気になるのは、なぜヨアヒムがこの曲を封印したのかということである。ヨアヒムがこの曲を封印したのは、この曲に共感できなかったからか、作曲家の異常な精神を感じ取ったからではないか、との推測が解説書に記載されている。シューマンはバイオリン協奏曲作曲後5ヶ月後にライン川に身を投げている。当時既に精神状態は危機に陥っていたのかもしれない。

 では、音楽自体はどうなのかというと、音楽に関しては全くの素人である私には特に狂気を感じることができない。暗い情念が渦巻く第1楽章を聴くと、確かにシューマンらしい陰鬱さがあるものの、ある意味ではとてもロマンティックだ。伝統的な3楽章形式で作られていて、緩徐楽章の後、それなりに盛り上がる第3楽章がくる。一頃私はこの曲の、それもメランコリックな第1楽章を好んで聴いていたことがある。

 いったいヨアヒムには何が見えていたのか? ヨアヒムという大バイオリニストには、楽譜の裏に隠れているものが見えたのだろうか? 音楽家には常人には分からないものが判別できるのだろうか? 彼らにしてみれば、この曲は封印されてしかるべきものなのだろうか? また、この曲を好んで聴くことは、慎んだ方がいいのだろうか?

 ややオカルト的な空想をするには最適の曲なのだが、私はこのCDを手にする度に複雑な気持ちになる。ぜひプロの音楽家の意見を聞いてみたいものだと思っている。

 

(2004年4月18日、An die MusikクラシックCD試聴記)