「ロンドン響」というブランド

ホームページ WHAT'S NEW? CD試聴記


 
 

 LSO live

CDジャケット

シベリウス
交響曲第3番
録音:2003年10月1、2日 、ロンドン、バービカンセンター
交響曲第7番
録音:2003年9月24、25日、ロンドン、バービカンセンター
コリン・デイヴィス指揮ロンドン響
LSO live(輸入盤 LSO0051)

 

 シベリウスの演奏はこうでなくては・・・と感じさせる1枚。第3番にしても第7番にしてもよく整った演奏である。2曲とも渋い曲なのだろうが、曲の渋さをいじらず、そのまま完璧に音にしたような見事さだ。第3番からのシベリウスでは、こうしたアプローチの方が嬉しい。デイヴィスは両曲とも知り尽くしているのだろう、実に自然な演奏である。指揮者には失礼な言い方だろうが、デイヴィスの姿を演奏から聴き取ることはできない。聞こえてくるのはシベリウスの世界のみ。これは理想的なシベリウス演奏のひとつといえるだろう。

 ロンドン響は完璧なアンサンブルを聴かせる。本当にライブなのだろうか、と訝ってしまうほどの腕前だ。しかも、録音もほどよい。このような高度な演奏のCDをたかだか1,000円程度で聴けるとは。

 LSO liveというのは歴としたレーベル名であるらしい。最初にこの名に接したときには「単発の記念CDか?」程度の認識しかなかったが、上記CDの番号を見ると、もう50枚ものCDが発売されているようだ。ロンドン響もこのレーベルを積極的にアピールしていて、そのホームページでも購入できるようになっている。

 このようなレーベルが成立するのは、オーケストラの演奏技術が高いことと、曲目と指揮者の組み合わせが妥当と感じられ、その期待が裏切られないことが前提になっていなければならない。このレーベルの真似をしたところで、いったいいくつのオケが同じことをし続けられるのだろうか?

 CLASSICAでもこのレーベルについては以下のように絶賛されていた。

 既存のレーベルではなく、自分たちでCDをリリースしよう、そういう理念を持った演奏家やオーケストラは多い。そのなかでロンドン響のLSO Liveは、メジャー・オーケストラ最大の成功例といっていいだろう。質が高いだけではダメで、それに加えて安い、美しい、新譜が途切れない、入手しやすいとまったくお見事。

 私も同感である。ロンドン響関係者には天才的なマーケティング担当がいたのだろう。

 デイヴィス指揮のシベリウスは、LSO liveによって3度目の全集が完成するかもしれない。デイヴィスは1975〜76年にボストン響と全集を完成し(PHILIPS)、さらに1992〜96年にロンドン響と全集を制作した(BMG=RCA)。LSO liveからは第3番と第7番の組み合わせが登場したと思ったら、続編である第5番、第6番のCDが既に英国で販売されているようだ。この分だとまず間違いなく残りの交響曲を含むCDも発売されるだろう。

 それどころか、先頃の来日公演で話題になったストラヴィンスキーの「火の鳥」など、デイヴィスのレパートリーが次から次へと世に送り出される可能性さえある。こうなると、LSO liveというレーベルへの期待は非常に高まってくる。

 ただし、交響曲第7番については、他ならぬデイヴィス指揮ロンドン響による1994年盤も無視できない。

 

■ BMG(RCA盤)

CDジャケット

シベリウス
交響曲第5,6,7番
デイヴィス指揮ロンドン響
録音:1992年〜1994年、ロンドン
BMG(国内盤 BVCC-38306)

 

 こちらはライブ盤ではない(ようだ)。第7番は1994年4月及び12月にロンドンのブラックヒース・コンサートホールで収録されている。

 白状してしまうが、私はLSO live盤を聴いてからBMGの1994年盤を購入したのである。実を言うと、私はデイヴィス指揮ボストン響によるシベリウス全集に全くといってよいほど共感を覚えなかったからである。数年おきに聞き直すのだが、その度にCDプレーヤーを止めてしまう。あの全集で聴くべきはボストン響のふくよかな音色であると私は結論を出している。そのような経緯があるため、BMGでの全集を購入する気にはなれなかった。

 ところが、こちらの第7番を聴いてみると、恐るべき完成度の高さだ。国内盤の解説をしている岩下眞好氏は、「およそこれまでレコードに録音されたオーケストラ演奏のなかでも群を抜いて素晴らしい不滅の名演である」と興奮気味に書いている。ライナーノーツの文章だからある程度割り引いて読む必要があるだろうが、私も「もしかするとそうかもしれない」と思う。この曲に関しては、ベルグルンド指揮ヨーロッパ室内管の演奏(1995年9月録音、FINLANDIA)を超えている。

 デイヴィスの1994年盤を聴いていると、曲の中盤(Adagioにさしかかるところ)で、目の前に巨大な壁がそそり立ってくるような錯覚を覚えるのである。もしかしたら、録音を担当したエンジニア(トニー・フォークナー)に騙されているのかもしれない。それでも、時折感じるこの巨大なスケールには心底驚く。

 興味深いのは、全曲の演奏時間である。1994年のBMG録音では22分51秒、LSO liveでは22分52秒。わずか1秒しか違わない。事実上同じだろう。デイヴィスの解釈がほぼ完成していることを表すのだろうが、受ける印象が異なってくる。

 さて。
私はこのような素晴らしいシベリウス演奏を聴かせてくれるデイヴィス/ロンドン響をとても高く評価したい。少なくともシベリウス演奏では立派なブランドだと私は思う。こうした団体なら、「私はロンドン響のファンである」という人が現れてもおかしくないだろう。

 

(2004年4月29日、An die MusikクラシックCD試聴記)