録音するということ

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CDジャケット

スメタナ
交響詩「わが祖国」全曲
ネーメ・ヤルヴィ指揮デトロイト響
録音:1993-1994年、デトロイト
CHANDOS(輸入盤 CHAN 9366)

 「ヤルヴィは一体どんな人なんだろう」と思ったことがありませんか? かつてはBISからシベリウス録音を出しているややマイナーな指揮者だと私は思っていたのですが、ふと気がついてみると彼は膨大な録音をしていて、大量のCDがリリースされています。録音のペースは半端なものではありません。ヤルヴィのホームページにあるディスコグラフィーをのぞきますと、目も眩むほどの分量であります。しかも、その中には知名度が必ずしも高くない作曲家の録音が含まれていて、これがヤルヴィ録音の特色のひとつともなっています。

 これだけのCDを録音するには、プロデューサーだけではなく、指揮者その人の強い意志が必要だと私は考えます。ヤルヴィという人は、録音するという行為に自分の人生を捧げているのかもしれません。かりに知名度が低い作品であっても、それが優れたものであれば、誰にでも聴けるように録音として後世に残すことを考えているのではないでしょうか? よほどの信念だと思います。

 では、CDの出来映えはどうなのでしょうか。おそらく平均点の高いものが並んでいるのではないかと想像されます。ヤルヴィが録音に使うオーケストラにはかなりの幅があり、エーテボリ響、ベルゲンフィルをはじめ、ロンドン響、ロンドンフィル、フィルハーモニア管、シカゴ響、デトロイト響など様々な団体が登場します。これまた壮観な眺めで、高度の技術を誇るオーケストラがずらりと勢揃いしています。よくもこれだけいろいろなオーケストラを起用できるものですね。さらにその録音は世界市場で販売されているわけです。

 実際にいくつかのCD、例えばここに挙げた「わが祖国」全曲を聴いていますと、失礼な表現ですが、意外なほどしっかりした演奏です。実はこのCDを私は興味本位で買ったのですが、もしこれが私にとって最初の「わが祖国」であったら、その後に聴く「わが祖国」の基準にだってなり得ただろうと思います。エストニア出身の指揮者、チェコの作曲家、アメリカのオーケストラ、イギリスのレーベル、そして今聴いているのは日本の私と、実にワールドワイドですが、この曲に歴史的なエピソード、特殊な感情を付け加えなければ気がすまないという人ならいざ知らず、多くの人が立派な演奏だと感じるはずです。ヤルヴィは6曲を2年にわたって、延べ5日間で録音していますが、ほぼ一貫して高いテンションを保ち、最後まで迫真の演奏を聴かせます。オケも力演というか、余裕を持った演奏をしています。アメリカのオーケストラのパワーや技術を感じます。

 ヤルヴィという人は譜読みが猛烈に速く、鋭く、そしてそれをどのようなオーケストラの楽員にも的確に伝達できる希有の才能を持っているのでしょう。そうでなければ、不況下で、しかも競争の激しい世界市場でこれだけの数のCDをリリースし続けられないはずです。願わくは、もっとメジャーな作曲家の録音、それこそベートーヴェンやモーツァルトで勝負してもらいたいところですね。強烈な愛情をもって取り組んでくれれば、言うことなしです。

 

(2005年7月15日、An die MusikクラシックCD試聴記)