コンセルトヘボウ管のページ

1970年代の録音

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 1970年代に入ると、ハイティンクはまずブラームスの交響曲全集を完成。1970年にはチャイコフスキーの交響曲第4番と第6番の録音もなされていますが、第5番は1974年になりました。そしてこの4年間にハイティンクはおそらく急成長を遂げたのでしょう。1970年代末に完成されたチャイコフスキーの交響曲全集の中で、4番と6番は全集用に再録音されましたが、第5番は74年のあの名録音が使用されたのです。

CDジャケット このあたりで同曲の録音が続いたりもしています。例えば1973年4月にはハイティンクがベートーヴェンとブラームスのヴァイオリン協奏曲をヘンリック・シェリングと録音します。その5ヶ月後にハイティンクは、当時のコンサート・マスターだったクレバースを独奏者に立ててブラームスを再録音。ベートーヴェンについては翌1974年1月にコリン・デイヴィスがアルテュール・グリュミオーと、同年12月にはハイティンクがクレバースと再録音しています。ブラームスでは二曲のピアノ協奏曲についても、1969年にハイティンクがクラウディオ・アラウと録音したあと、1973年にはハンス・シュミット=イッセルシュテットがアルフレッド・ブレンデルと1番を録音。続いて2番も録音予定だったとのことですが、イッセルシュテットの急逝によりハイティンクが交替して同年に録音されました。同一オーケストラによるレパートリーの重複という点を、フィリップスはさほど気にしていなかったのでしょうか。

CDジャケット 1970代前半の大きなプロジェクトは、ヨゼフ・クリップス指揮によるモーツァルトの後期(21番以降)交響曲の全曲録音でしょう。これはマリナー指揮アカデミー室内管弦楽団による20番までの録音とセットにされた「交響曲全集」としてCD化されています。

CDジャケット 1974年にはラファエル・クーベリックがベートーヴェンの交響曲第2番をDGに録音。これはご存じのように世界の9つの有名オーケストラを1曲ずつ振り分けるという空前(たぶん絶後かも)の企画による交響曲全集の一環であり、ということはコンセルトヘボウ管弦楽団にもっともふさわしいのは第2番ということになります。DGには1978年にバーンスタインの指揮でベートーヴェン「荘厳ミサ曲」が録音され、その後1980年代にはマーラーやシューベルトがいずれもライヴ録音されているのは、これもご存じの通りです。

CDジャケットブラームス、2重協奏曲の録音風景 1979年6月、コンセルトヘボウ管弦楽団はEMIに(おそらく)初登場ハイティンク指揮、イツァーク・パールマンとムスティスラフ・ロストロポーヴィチを独奏に迎えたブラームスの二重協奏曲です。その数年後に録音されたメンデルスゾーンと組み合わされて1988年にCD化されており、そのブックレット(外盤)には初登場に敬意を表したものか、演奏者の中でコンセルトヘボウ管弦楽団だけがプロフィールを紹介されています。また建設当初のコンセルトヘボウの外観写真と、ブラームスの方の録音光景のスナップ写真も掲載されています。ここで注目は後者、オーケストラが舞台の上ではなく下に並んでいる様子を確認できるのです。おそらく前部の客席を録音のために一時撤去したのでしょう。コンセルトヘボウでの録音にあたってはこういうケースもあるということは、『200CD クラシックの名録音』(田中成和・船木文宏編,立風書房,1998)にも記述があります。「プロデューサーやエンジニアの各人各様の流儀があるようだ」とのことですが、しかし初録音でノウハウがないはずなのにいきなりこんな手間のかかる変則的なことをしてしまうとはどういうわけだったのでしょうか。

CDジャケット 1970年代後半のフィリップスは、80年代半ばまで継続するデイヴィス指揮のハイドン交響曲のシリーズ、同じくデイヴィスのストラヴィンスキー三大バレエやドヴォルザークの後期三大交響曲、ネヴィル・マリナーによる英国もののセッション、コンドラシン指揮の「シェエラザード」やドラティ指揮のチャイコフスキーのバレエ、そして前述したハイティンクのチャイコフスキー交響曲全集といった充実ぶりを示し、完成の域に到達した深みのある録音技術とあいまって、フィリップスのコンセルトヘボウ録音はここに大きなピークを迎えた感があります

 なおハイティンクの録音に関して補足しますと、彼は1967年にロンドン・フィルの首席指揮者に就任しており、コンセルトヘボウ管弦楽団との兼務で1970年代いっぱいその地位を務めました。その間ロンドン・フィルは録音にもしばしば起用され、すでにフィリップスにコンセルトヘボウ管弦楽団の1960年代の録音があったベートーヴェンの交響曲全集やピアノ協奏曲全集、あるいはお国もののホルストやエルガーはともかくとして、ストラヴィンスキーの三大バレエ、リストの交響詩やピアノ協奏曲、モーツァルトの序曲集、メンデルスゾーンの交響曲といったものにまでロンドン・フィルが起用されている。リストやメンデルスゾーンはコンセルトヘボウ管弦楽団の録音が他にほとんどないこともあり、なぜこれらがロンドン・フィルで録音されてしまったのか、今となってはたいへん残念なことです。


(An die MusikクラシックCD試聴記)