ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団ブラス・クインテット
文:青木さん
コンセルトヘボウ管の金管セクション首席奏者による五重奏団。ブラス・アンサンブル・オブ・ザ・ロイヤル・コンセルトヘボウ・オーケストラのコンサートの中に組みこまれる形でアメリカ、ドイツ、オランダで公演していたが、2008年の日本ツアーのために本格的な活動を始めたとのこと。
■ メンバー
フリッツ・ダムロウ Frits Damrow (トランペット)
- マーストリヒト音楽院で学び、ジェイムズ・スタンプ、トーマス・スティーブンス、ピエール・ティボーに師事
- 1982年から1991年までオランダ放送交響楽団の首席奏者
- 1991年にロイヤル・コンセルトヘボウ管に入り、1994年より首席奏者
- 過去にマーストリヒトやヒルフェルスムの音楽院、現在はアムステルダム音楽院にて教鞭をとる
ペーター・マスース Peter Masseurs (トランペット)
- アントワープ王立音楽院で学んで最優秀の成績を獲得し、王立空軍バンドに入団
- 1970年にロッテルダム・フィルの1番トランペットに任命
- 1982年よりロイヤル・コンセルトヘボウ管の首席奏者
- アムステルダム王立音楽院の主任教授
ヤスパー・デ・ワール Josper de Waal (ホルン)
- ティルブルグ音楽院にてヘルマン・ユーリッセンに学び、ハーグ王立音楽院にてヴィセント・ザルゾに師事
- 1990年から2004年までハーグ・レジテンティ管弦楽団の首席奏者
- 2004年8月よりロイヤル・コンセルトヘボウ管の首席奏者
- ハーグ王立音楽院にてマスタークラスを受け持つ
イェルゲン・ファン・ライエン Jorgen van Rijen (トロンボーン)
- ロッテルダム音楽院にてジョージ・ヴィーゲルに師事して最優秀の成績にて卒業
- リヨン国立高等音楽院にてミシェル・ベッケ、バロック・トロンボーンをダニエル・ラサールに師事したのち、ロッテルダム・フィルの首席奏者
- 1997年よりロイヤル・コンセルトヘボウ管の首席奏者
- ロッテルダム音楽院にて教鞭をとる
ペリー・ホーヘンダイク Perry Hoogendijk (テューバ)
- ヒルフェルスム音楽アカデミーで学位を取得し、エッセンとデトモルトの両アカデミーにて学ぶ
- アメリカにてレックス・マーティン、ジーン・ポコーニー、チャールス・ヴァーノンのレッスンを受講し、アーノルド・ジェイコブスのマスタークラスにも参加
- 1996年より2004年まで北オランダ・フィルハーモニック
- 2004年9月よりコンセルトヘボウ管の首席奏者
- スウェーリンク・アカデミー(アムステルダム)にて教鞭をとる
■ 2008年の来日公演の概要
「“黄金の金管(ブラス)”を聴け…!!」というキャッチ・コピーのもと、下記の日程で来日公演が組まれました。もちろん初来日です。
2008.7.04.(金) 18:30
会場:一関文化センター大ホール(岩手)
料金: 1階S 3500円、1階A 3000円、2階A 3000円、2階B 2000円(当日各500円増)/全席指定2008.7.06.(日) 14:30
会場:加古川ウェルネスパークアラベスクホール(兵庫)
料金:一般4000円、高校生以下2000円(当日各500円増)/全席指定2008.7.07.(月) 19:00
会場:武蔵野市民文化会館小ホール(東京)
料金: 3500円/全席指定2008.7.08.(火) 19:00
会場:浜離宮朝日ホール(東京)
料金:一般6000円、学生3500円/全席指定2008.7.9.
会場:桐蔭学園
(非公開)2008.7.11.(金) 19:00
会場:グランシップ中ホール(静岡)
料金:一般4500円、学生2000円2008.7.12.(土) 15:00
会場:京都コンサートホール大ホール(京都)
料金:S 4000円、A 3000円、B 2000円、シニアシート(70歳以上)2000円2008.7.13.(日) 15:00
会場:大仙市中仙市民会館ドンパル(秋田)
料金:指定席4000円、自由席:大人3000円、高校生以下2000円関連公演(1)トランペット・ジャンクション
トランペットのダムロウとマスースが、日本国内のオーケストラに所属する7名のトランペッター「ジャパン・ヴィルトゥオーゾ・トランペッターズ」(及びピアノ)と共演したコンサート。2008年7月10日(木)、京都市と京都コンサートホールの主催により、「アンサンブルホールムラタ コンサートシリーズ」として開催されました。ペットの二人は翌日が静岡でその翌日はまた京都。慌しいことです。
関連公演(2)インターナショナル・トロンボーン・アンサンブル
トロンボーンのライエンは、同時期に来日公演を行った「ITE=インターナショナル・トロンボーン・アンサンブル」(2008年6月30日〜7月14日)のソリストにもなっており、重ならないときはそちらにも出演するという多忙ぶりでした。ITEはオランダのトロンボーン・アンサンブルということで、コンセルトヘボウ管のバート・クラエッセンス(Bart Claessens)もメンバーとなっています。
■ 2008年来日公演の感想
5人とはいえコンセルトヘボウです。行かざるべからずというワケで、7月12日の京都公演に行きました。メンバーによる曲目解説が載っている二つ折のプログラムがチラシ類といっしょに配られ、終演後にはサイン会があったりして、なんとなくインティメートな雰囲気です。この日の曲目は
(1)S.シャイト:組曲〜チェントーネ第5番より
(2)L.v.ベートーヴェン:ソナタ「悲愴」
(3)M.グリンカ:「ルスランとリュドミラ」序曲
(4)J.ホロヴィッツ:ミュージック・ホール組曲
(5)J.S.バッハ:トッカータとフーガ ニ短調
(6)M.フォーサイス:ザ・ゴリヤーズ・グラウンド
(7)J.クーツィール:金管五重奏曲
(8)E.クレスポ:アメリカ組曲 第1番
アンコール(1)千の風になって
アンコール(2)ブラームス:ハンガリー舞曲第5番
アンコール(3)ドッグ・ゴーン・ブルースというもので、たっぷり2時間。本編は(1)(2)(3)(5)が編曲モノ、他がこの編成のためのオリジナル。当初発表された曲目は(5)が同じバッハの「コントラプンクトゥス第9番」でしたが、変更された(5)がもっとも聴きごたえのある名演奏だったので、個人的にはありがたい変更でした。
さて演奏ですが、ひとことでいえば「さすがコンセルトヘボウ…!!」ということになるでしょう。名オーケストラのブラス・アンサンブルときいて想像するシャープな大音量、バリバリと吹きまくる痛快さやノリのよさ、圧倒的な超絶技巧…といったものは、要素としてはあったものの前面にアピールされることはありません。あくまでまろやかな音色で余裕を残した吹きっぷり。5つの金管楽器は美しく溶け合い、とげとげしさや喧しさは皆無。ただただ楽曲を、音楽を聴かせることだけに奉仕しているかのような…。こういう奏者たちが首席にいるのだからコンセルトヘボウ管弦楽団があのようなサウンドになるのももっともだ、などと思わせます。すばらしい演奏会でした。
何度目かのカーテン・コールにひとり遅れたダムロウは、最後の曲にちなんで小さな犬のおもちゃを持って登場。そのままステージに置いていかれた犬くんは、最後にホーヘンダイクのチューバの中に回収?されました。なんともユーモラスな幕切れです。
マイクを使ったあいさつや簡単な解説はトロンボーンのライエンが担当。「11月にはオーケストラ全体でまた来ます」。これには二重の意味があり、今回のクインテットのツアーにおいて秋のコンセルトヘホヴ管本体のツアーと同じ会場が使われたのはここ京都だけなのですね。それにも行く予定なので、4ヶ月後がますます楽しみに。
■ CD
会場で”TOUR HIGHLIGHTS”と題された彼らのCDが販売されていました。京都の演目でいえば(1)(6)(7)(8)を収録。RCOレーベルのCDと同じマークが入っていて、さらに同じ字体で”DONATEURS”と書いてあります。意味は「寄贈者」。財団の寄付で製作されたCDなのでしょうか。録音データ等の詳しいクレジットがなく、時間も30分ほどで、プロモーション用のようでもあります。どちらにしても、サイン会への参加権利つきとはいえ税込み2500円もとるというのは商魂たくましいと申せましょう。もちろん買いましたけど。
収められた演奏はコンサートの感激を追体験するのに十分なものですけど、個人的な「ハイライト」はバッハだったので、それも入れてほしかった。
楽団やメンバーのプロフィール等については、上記のCD解説や公演プログラム、コンセルトヘボウ管や招聘元のウエブサイトを参考にしました。
(2008年7月20日、An die MusikクラシックCD試聴記)